#小説

朝井まかて「最悪の将軍」

平成最後の年末、平成最後の正月、その他多数の「平成最後の」が飛び交った年末年始。特にテレビはすさまじい頻度で語られました。平成を回顧する番組も多かったと思いますが、果たしてこの平成の時代はどう位置づけられるのか?ただ、今上天皇を悪く言う言…

白石一文「ここは私たちのいない場所」

白石一文「ここは私たちのいない場所」読了。 先日読んだ「神秘」に出てくるような中年男性が主人公。 主人公の芹澤さんは、大手食品会社の役員。彼は独身を貫いて仕事一筋で生きてきた優秀なビジネスマン。しかしある事件の責任を取ってあっさりと会社を辞…

桜木紫乃「ふたりぐらし」

桜木紫乃「ふたりぐらし」読了。この小説での二人とは、映写技師で仕事がたまにしかない信好と看護師の紗弓。信好はなかなか仕事が見つからず、半ば紗弓に食べさせてもらっているような状態。それでも、その優しさから紗弓から愛されている。また、信好もま…

柚月裕子「凶犬の眼」

柚月裕子「凶犬の眼」読了。「孤狼の血」で主人公大上刑事の部下となり、大上のやくざとの付き合い方や、やくざの抗争の何たるかを、大上哲学で学んだ若き刑事、日岡が今回の主人公。 大上は前作で殉職し、日岡も違法捜査の責任を取らされて田舎の駐在所に飛…

柚月裕子「盤上の向日葵」

柚月裕子作品「盤上の向日葵」読了。これまた560ページの大作。ただし会話が多い作品で、読みやすく、文字量としては400ページぐらいの物量なので、そんなに長編とは感じつ、かつぐいぐいと引き込まれる作品。中学生騎士藤井聡太の出現によって俄然盛り上が…

白石一文「神秘」

白石一文作品「神秘」読了。560ページの大作ではたして最後まで飽きずに読み終えるかと心配しましたが、次第に興味深くなり、ペースも上がって読み終えました。 私(菊池)を中心にして、一つの出会いがまた他の出会いを生み、その積み重ねが最後に終結し…

白石一文「光のない海」

白石一文「光のない海」読了。 白石作品を集中的に読んでいますが、本作も読みやすい語調で、すいすいと読めましたが、主題がどこにあるのかが若干あいまい。 少年時代に父親が家を出て母親に育てられた兄と妹。母親も少年が高校生の頃亡くなって、天涯孤独…

白石一文「一瞬の光」

白石一文シリーズの読書続行中。今回読了したのは、彼のデビュー作というべき「一瞬の光」。 38歳の若さで大企業の人事課長になった橋田浩介という東大出身のエリートサラリーマンが、ある夜偶然に、採用面接した短大生を暴漢から助けるところから話が始まる…

白石一文「彼が通る不思議なコースを私も」

白石一文「彼が通る不思議なコースを私も」読了。300ページほどの作品ですが、文字の区切りが短く、ページに空き空間が多いため、実質は半分ぐらいのページ数のためあっという間に読めました。もちろん内容もよくて、先を読みたいがためにどんどん読み進めた…

白石一文「愛なんて嘘」

直木賞作家、白石一文の短編集作品「愛なんて嘘」読了。 白石作品は久しぶりに読みましたが、更に腕を上げたという印象。 表題の「愛なんて嘘」は、6作品が納められたこの短編集に共通な主題のようにも感じた作品集。 どの作品も味わい深いのですが、登場す…

雫井脩介「望み」

雫井脩介作品「望み」読了。ある夫婦の高校生の息子が行方不明になり、殺人事件に関係しているらしいことがわかる。夫は息子が殺人を犯すはずがないと主張し、妻は犯罪者であっても生きていさえすればいいと主張。目撃証言などから、息子が犯罪の共犯者なの…

柚月裕子「蟻の菜園」

柚月裕子の「蟻の菜園」読了。いま最も人気のある女流作家の作品は、親の愛に恵まれず、父親からはひどい虐待を受けて育った姉妹の悲しい物語。虐待を受けたがゆえに、固い絆で結ばれた姉妹が、やむなく犯罪に手を染めてしまうのですが、少なくとも父親に対…

浅田次郎「おもかげ」

久しぶりに浅田次郎作品「おもかげ」読了。一流商社に勤め役員になれなかったものの、子会社の役員を務めて65歳で引退した竹脇正一が、送別会の日に病に倒れ、意識をなくす。そんな彼を見舞いに来た商社の社長の、彼への思いから話が始まる。いかにも浅田次…

太田愛「天井の葦」

太田愛さんの3部作、「幻夏」、「犯罪」、そして今回読んだ「天井の葦」。いずれも第一級のサスペンスであり、社会に向けてのメッセージでもある小説。「天井の葦」は上下巻、都合800ページに及ぶ大作ですが、その面白さに引き込まれました。 主人公は前…

柚木裕子「慈雨」

「孤狼の血」、「盤上の向日葵」など、話題作を発表し、脂の乗り切っている女流作家、柚木裕子さん。「慈雨」は、地味な作品ですが、読みやすい小説でした。 群馬県警を退職した刑事が、自分がかかわった事件の被害者に祈りをささげるために、妻と四国88カ…

連城三紀彦レジェンド

当代の売れっ子ミステリー作家、綾辻行人、伊坂幸太郎、小野不由美、米澤穂積の四氏が、連城三紀彦の短編ミステリー6篇を選んだ短編集。久しぶりの連城作品に改めてため息が出ました。 私自身は収録された作品のうち「依子の日記」、「桔梗の宿」、「親愛な…

石牟礼道子氏を送る会

4月15日の日曜日、映画「ダンガル」を持た後、有楽町駅の反対側、朝日ホールにて石牟礼道子氏を送る会に出席。ホールはすでにいっぱいで、別室にてモニターで講演者のお話を聞く。 石牟礼さんは水俣病を文学の面から世に知らしめ、かつ活動家としても活躍さ…

浅田次郎「天切り松闇語り第五巻 ライムライト」

浅田次郎先生のシリーズの最新刊、「天切り松闇語り第五巻 ライムライト」読了。 第一作を読んで感動してから何年がたつのか?とにかく抜群に面白いシリーズ。今作は、表題作をはじめ6作ですが、どれもはずれなし。目細の安吉一家のそれぞれが主役を張るオ…

桜木紫乃「風葬」

桜木紫乃さんの初の長編小説である「風葬」読了。 長編といっても200ページほどの中編、相変わらずに読みやすい筆致。北海道根室と釧路を舞台に、桜木さんらしい雰囲気を十二分に醸し出す寒々とした作品。もちろん、「寒々」は作品が寒々しいのではなく、…

石牟礼道子「苦海浄土」

石牟礼道子「苦海浄土」読了。 読むきっかけは、立教大学であった石牟礼道子氏の文学に関するシンポジウム。恥ずかしながら、今年2月に亡くなるまで知らなかった作家で、訃報の記事を読み、水俣病患者救済について大変な尽力があったということを読み知った…

桜木紫乃「裸の華」

桜木紫乃「裸の華」読了。私の好きな女性小説家の一人で、北海道の主に釧路を舞台とした小説が多いのですが、今回の舞台は札幌はすすきの。主人公ののりかは、40歳の元ストリッパー。舞台でけがをして、小屋でストリップをできなくなったため、デビュー地の…

奥田英朗「向田理髪店」

久しぶりの奥田英朗作品「向田理髪店」読了。 北海道の、かつては炭鉱で栄えたものの、炭鉱がなくなり、箱モノ行政や映画祭などで町を活発化しようとしたものの、すべてうまくいかず財政破たんした町といえば夕張市。この夕張をモデルにして、架空の町「苫沢…

下村敦史「闇に香る嘘」

2015年の江戸川乱歩賞受賞作、下村敦史の「闇に香る嘘」読了。 盲目の高齢者を主人公に据えて、そこに中国残留孤児問題を絡めたミステリータッチの社会派小説とでも呼べばよろしいのか? 乱歩賞を受賞したとはいえ、賛否の残る作品かもしれません。 主人公が…

米沢穂信「王とサーカス」

米沢穂信作「王とサーカス」読了。2001年に発生したネパールでの国王暗殺事件を背景としたサスペンス。国際的な事件ということで、その概要を調べてみると、民主的な国王ビレンドラを、その息子のディレンドラ王子が暗殺し、その王子も傷を負い、数日後死亡…

太田愛「犯罪者」

脚本家太田愛さんの小説デビュー作「犯罪者」読了。上下巻合わせて900ページの大作ながら、まったく飽きさせないストーリー展開。読みやすいためにすいすいと進み、先を読むのが待ち遠しくなるため、若干の寝不足状態。 第二作目の「幻夏」から先に読みまし…

中山七里「静おばあちゃんにおまかせ」

推理作家、中山七里の「静おばあちゃんにおまかせ」読了。 元裁判官の静おばあちゃんが、難解な事件をいとも簡単に推理して解決してしまうという軽妙な推理小説。若い警視庁刑事の葛城と、彼の彼女の円さん、そして円のおばあちゃんが静さん。 この三人が難…

柚木裕子「孤狼の血」

柚木裕子「孤狼の血」読了。柚木さんは今売り出し中の女流作家。私もいくつか読んでいますが、検事物を中心とした、法廷小説が好きですが、最近はジャンルの幅が広くなっているように思います。 そんな彼女の今までの作品とは一味もふた味も違うやくざと警察…

米澤穂信「満願」

米澤穂信が2014年のミステリー年間ランキング3冠に輝いた短編集「満願」を読了。 私にとって米澤作品は初めての作品。こんなミステリーを書く作家がいたとは、己の鞭を恥じ入るのみです。 表題作ほか、全6篇が収録されていますが、いずれも読みごたえあり。…

中山七里「贖罪の協奏曲」

中山七里作「贖罪の協奏曲」読了。初めて読む作家で、調べてみたのですが、推理小説ではなかなかの作家のようです。手始めに表題作を読みましたが、読みごたえのある作品でした。 弁護士の御子柴が主人公で、夫殺しの事件の弁護することに。普段は金もうけ主…

唯川恵「天に堕ちる」

唯川恵の短編「天に堕ちる」読了。訳アリの女の短編が10編、それぞれの女性(一篇だけは男性)の名前を冠した短編小説で、幸せな気分を味わえるような、つまりはハッピーエンドにならないような話ばかり。 最初の一篇はやはり印象に残るもの。この主人公はり…