桜木紫乃「風葬」

桜木紫乃さんの初の長編小説である「風葬」読了。
長編といっても200ページほどの中編、相変わらずに読みやすい筆致。北海道根室と釧路を舞台に、桜木さんらしい雰囲気を十二分に醸し出す寒々とした作品。もちろん、「寒々」は作品が寒々しいのではなく、桜木さんが放つ小説の雰囲気。その文章表現からは、すっかりすたれた釧路、根室の街の様子から、釧路湿原、海などの描写まで、心も寒くなるような見事な表現で雰囲気を醸し出しています。
序章で30年前の事件が語られ、まずは引き込まれ、今後の展開に興味がふつふつ。
話は釧路に住む書家の娘夏紀が認知症がちの母が口にする「ルイカ岬」が、新聞に投稿された短歌の「涙香岬」ではないかと気が付くところから話が動き始める。夏紀は母との血縁関係を疑い、なんとか真実を知ろうとして、根室の涙香岬にヒントを求める。一方の短歌の作者である澤田徳一は、夏紀と会って30年前の事件の真相に迫ろうとする。これに徳一の息子の元教師、優一のいじめ事件に関する話が交錯して、さらに話を面白くさせている。
最後に徳一と優一が真相の理解する場面は簡単に処理されているのがたまに傷だが、それを差し引いても、その雰囲気に酔わされる作品でした。
今日はこの辺で。