太田愛「犯罪者」

脚本家太田愛さんの小説デビュー作「犯罪者」読了。上下巻合わせて900ページの大作ながら、まったく飽きさせないストーリー展開。読みやすいためにすいすいと進み、先を読むのが待ち遠しくなるため、若干の寝不足状態。
第二作目の「幻夏」から先に読みましたが、処女作の方が若干面白かった気もしています。
主な主人公は、「幻夏」でも登場した3人、警察署内で孤立する相馬、元テレビマンで、現在はライターの鑓水、そして今回の最大の主人公になる18歳の修二。基本的にこの3人が事件を負うのですが、わき役陣がさらに充実。問題を起こす食品メーカー社員の中迫、中迫から問題の食品サンプルの処分を依頼される産廃業者真崎。さらに強烈な悪役として滝川。滝川の雇い主の政治家と秘書、食品メーカー重役など。
900ページの中には、政治家と企業の癒着、企業の隠ぺい体質、被害者たちの苦悩と裁判への厚い壁、マスコミのスポンサーや視聴率への偏重など盛りだくさん。
最も強烈なのは妻と子供を失った産廃業者真崎と殺し屋滝川の対決場面。真崎の周到な告発計画と仲間意識を持つ人間をだましてでも守ろうとする心意気。こんな人間が殺されるのは忍びないですが、強烈な印象を残します。そして揺れ動く真崎の親友となる中迫。
今回の主役である修二と、彼を守ろうとする相馬、鑓水の3人の魅力的な個性は小説の魅力を増幅しています。
とにかく、超人のようなプロの殺し屋滝川と相対する5人の男たちの姿が、すごい迫力と窮迫感を持って描かれています。
名脚本家が必ずしも名小説家にはなれないとの巻末の解説にありましたが、太田愛に関しては、一級品の小説家になるでしょう。
さっそく散策目の「天上の葦」を調達しなければ。
今日はこの辺で。