秋吉理香子「終活中毒」

秋吉理香子さん作品も読みやすい部類で、しかもページ数が少ないのがうれしい限り。

本作は“中毒”というどぎついタイトルが付けられていますが、タイ取りに相応しいのは第一作ぐらいで、後は全く禍々しい話ではなく、むしろ感動する“死”にまつわる短編4つで構成されたもの。

  • SDGsな終活:30代の僕は、余命宣告された女性に近づき結婚し、女性の死後に財産を奪おうとする詐欺男。ただし、彼からするとこれはちゃんとしたビジネスと割り切っている。過去2回これで成功して財産とえているが、今回のターゲットは45歳のガンで余命1年半と宣告された女性。病院に勤務してカルテ情報をつかみ、早速女性に近づきまんまと結婚。女性はタワマン他、かなりの不動産を持つ人で、数億の財産が見込める。彼女はSDGsの実践者で、今のタワマンから田舎の古民家に引っ越し、理想的なSDGsな生活を送り、僕もそれに付き合わされる。そんな生活と、保険外診療の薬品のおかげでがんの影が薄くなり、余命はどんどん伸びていることがわかる。こんなはずではなかったと焦る僕は、祥子の残らない殺人を考え、それを試そうとするが、寸前で回避されてしまう。そして女性は、逆に罠を掛けるような策略を考え、ついに自分がその罠にはまってしまう。
  • 最後の終活:母の3回忌を自宅でやろうと、久しぶりに息子が帰省。3回忌に合わせて自宅をリフォームしよう、その為に家の中を整理しようなどと父親に言い、一緒に作業を開始。父親は息子とはうまくいっていなかったのだが、息子の協力的な態度にすっかり感動し、息子の言うとおりに作業を一緒に進める。こんな息子を誇らしく思いながら。ところがこの息子がしばらく顔を見せなくなる。リフォームの代金は前払いで払い込んでいるし、家の中には金目のものもあったはず。そこに警察から電話があり、息子と思っていた男は詐欺師だったことが判明。実は妻が2年前に交通事故で亡くなった際、本人も頭を打って認知機能が低下していたのだ。息子は確かにいたが、その息子はトランスジェンダーであり、父親に告白した際に激怒し、それを木に息子は自殺していた。そのことを覚えていなかったのだった。今になって、息子を死に追いやった自分を責めるのだった。
  • 小説家の終活:神崎さんはかつて売れっ子女流小説家だったが、ある事を境に全く欠けなくなり、25年間何も書いていない。それは、全盛期に日光を舞台にしたミステリーの取材目的で、現地を訪問した際、まだ売れていなかった花菱あやめという作家が是非同行させてほしいと言ってきたので一緒に行き、帰京後、神崎は作品を数カ月かかって完成し編集者に送ると、全く同じプロットの作品が花菱あやめからすでに届いていると言われる。神崎のアイデアなどは全く花菱には伝えておらず、これは盗作ではないことを承知で、花菱に取り下げを要請するが、拒否される。以後神崎は書けなくなり、花菱は大作家になって、先ごろ74歳でなくなった。花菱の遺言で、かつて親交のあった人たちが呼ばれ、部屋の中のものを祈念に一点ずつ持って行ってくれと娘さんから言われ、神崎はワープロをもらって帰る。ところがそのワープロにはフロッピーが付いていて、大傑作が書き込まれていた。これを家族が読んで感激したことから引けなくなり、これを神崎の名前で出版する企画がどんどん進む。神崎はその罪悪感にさいなまれ、ついには編集長に告白。しかし、実は花菱が神崎は書けなくなったのは自分のせいだという気持ちがあり、わざと神崎に残して送ったものだった。編集長もそれを承知で出版しようとしたのだが、神崎はやはりできないと断ることにする。
  • お笑いの死神:六太さんは売れない芸人で、同じく売れない女芸人のヨメさんと結婚。二人には子供が生まれ貧しいながらも幸せな生活を送っていたが、六太さんが41歳でがんで余命宣告を受ける。六太さんはヨメと娘の花に何かを残したい一心で、P1グランプリに出て優勝し、賞金を稼ごうと一念発起する。一回戦は会長に喋り捲っていたが、観客席に黒服を着て、決して笑わない男がいた事柄一瞬フリーズしてしまう。何とか突破したものの、以後毎回現れる黒服の男を何とか笑わせようと必死にネタを作り、ついには決勝に進む。しかし、彼の身体は既に限界に来ていた。芸を終えたものの、身体がぐらつき当日ヨメに着せてもらった赤ふんどしが見えてしまい、黒服が初めて笑った。六太はその後亡くなり、黒服が彼の父親であることがわかる。父親は耳が聞こえないため笑えなかったが、赤ふんどしで初めて笑えたのだった。葬儀でヨメは、舞台で死んだ六太は決して不幸では無い死だったことをしみじみ語ったのだった。

特に2~4の作品のラストががっつり決まっていて、いい作品群でありました。

今日はこの辺で。