白石一文「神秘」

白石一文作品「神秘」読了。560ページの大作ではたして最後まで飽きずに読み終えるかと心配しましたが、次第に興味深くなり、ペースも上がって読み終えました。
私(菊池)を中心にして、一つの出会いがまた他の出会いを生み、その積み重ねが最後に終結して行く不思議な物語。もちろんそんな偶然が続くわけがないのは自明ですが、不自然さを全く感じさせない魅力のある作品。
主人公の私は、大手出版社の敏腕編集長として仕事中心の生活に明け暮れ、ついには取締役となり、将来の社長候補と嘱望される人。しかし、取締役になったとたんに余命1年の末期のすい臓がんと診断される。彼は一切の治療を断り、20年前に電話で話した女性を探しに神戸に住まいを移す。彼女は病気を治す不思議な力を持っていることを信じ、彼女にかけようとする。その彼女には1か月少しで会うことができるのだが、それも不思議な出会いが重なったことによる結果。彼女と暮らすことで生活も規則正しくなり、彼女の店を手伝い、1年の余命が2年と過ぎていく。「できすぎな話」ではありますが、そこが表題の「神秘」。がん細胞が増殖しなくなることはあるし、治癒することも数パーセントはあると聞きます。
作者が言いたいことは、自分が生まれる、そこに存在すること自体が偶然の産物であり、決して不思議ではないということに思われます。
最後に分かれた医者の奥さんとの出会いは、まさにこの神秘的な出会いの積み重ねの終結点。感動的でもありました。
今日はこの辺で。