原宏一「穢れ舌」

原宏一氏は1954年生まれと言いますから、既に70歳を超えたベテラン作家。大学卒業後コピーライターとなり、小説家となったのが1997年頃のようですから、かなり遅いデビュー。本作「穢れ舌」は、飲食業界の評価会社の女性社長が、顧客の要請の基づきその飲食会社が投資する価値があるかを評価するという連作短編三作。

  1. ユウコの厨房:評価会社を起業したのは牧村紗英さんは、他のスタッフ3名という小さな会社ながら、顧客には信用を築いてきた。「ユウコの厨房」は、かつては女優を目指したユウコさんが、今は人気料理研究家となり、その人気を活かして数店舗の飲食店を経営する起業家として名前を売っている。そのユウコさんの店の実態を評価してほしいとの顧客からの依頼があり、調査の結果、ユウコさん自身は操り人形のような存在で、料理は素人同然で、自家農園の食材というのも真っ赤な嘘であることから、紗英さんはユウコさんに調査内容を話し、ユウコさんは自分もこれ以上やっていられないことを悟り行動に出る。
  2. 酒蔵烏鵲:次の依頼は自家醸造で人気のある酒蔵の評価。この酒蔵は社長の奥さんの実家が営んでいたが、経営が低迷して閉店をしようとしていたが、奥さんの旦那さんが後を継ぎ、マーケティングが成功して、プレミアがつくほどの人気日本酒を醸造。更なる発展を目指している会社だが、紗英さんが調べていくうちに、自家醸造は真っ赤な嘘で、桶買をしていたことがわかる。その購買元の主人が亡くなったことから、社長は飲食コンサルタントにも相談して、次なる醸造蔵を探していくが、そこには大きな罠が待つ。奥さんは社長のやり方にあい層が尽きるのだった。
  3. すし海将:銀座の高級すし店「海将」が次のターゲット。早速紗英は店に行って試食しに来店、高級店にしては安価でまあまあの味。寿しだねが北海道と新潟の自家買いで安いとの説明を受ける。疑問を感じて早速作戦会議を開き、正直な店の店員も巻き込んで、テレビドキュメンタリーで告発することに。この購買方法などを含め、前二作でも登場する悪徳コンサルの告発も含めて告発することに成功。

飲食に関する評価は、現在は食べログやぐるなびで一般的になっているが、食に関するトラブルも多発する昨今。面白い作品でした。

今日はこの辺で。

天童荒太「昭和探偵物語」

天童さんが最後のあとがき(謝辞)で述べているように、かつて見た市川崑監督の横溝正史作「八墓村」を連想して書いた「昭和探偵物語」読了。

時代は戦後20年たったころ。尽忠村という田舎の村が、米軍将校の助言で「平和村」に改名することになり、そのイベントが開かれる直前に発生した村での殺人事件を、金田一ならぬ、鯨庭(いさにわ)行也が、その謎を解いていくというストーリー。

村出身の19歳の新人女優が新作映画に主演することになり、その宣伝もかねて彼女が一緒に来てほしいと頼んだのが鯨庭。彼はギターで流しをやるほか、探偵のようなこともして実績をあげていた。新人女優に脅迫めいた手紙が届いたことから、警視庁の国生刑事も同行することに。そこで起きたのが寺の和尚と和尚の甥っ子の医師が殺害される。村の名前が替わることに反対する勢力もいることから、村の分断が原因なのか、あるいは昔の因縁のようなものが関係しているのか?それを鋭く金田一耕助風に解いていく鯨庭の鮮やかな推理はお見事。登場人物の中で悪人はただ一人。かつて戦争を早く終わらせようとして米軍のスパイになったと言われた人間が誰なのか?その人間関係が暴かれていき、20年前に起きたおぞましい事件が今回の事件のもとになっていたのでした。

天童さんが楽しそうにこの物語を書いていたことが伺えました。

今日はこの辺で。

天童荒太「ジェンダー・クライム」

天童作品は「悼む人」に代表されるように、人間の悲しみや救いを描くものが多いが、本作「ジェンダー・クライム」は、刑事を主人公としたスリラーもの。しかしながら、やはり悲しみや救いを求める人間像が描かれている点では、天童作品らしい作品。

警視庁八王子管内で中年男性の全裸死体が発見され、体内(肛門内)に”目には目を“という復讐めいたメッセージが残されているのが見つかる。本庁捜査一課の志波刑事の指摘でそれが発見される。八王子南署の刑事である鞍岡とコンビを組み、犯人に迫っていくという展開。志波は鞍岡より一回り若い後輩だが、推理眼が鋭く、ジェンダー問題にも造詣が深い。対して鞍岡も捜査眼は鋭く、かつて捜査一課でならした刑事だが、上司と確執があり八王子に飛ばされ、ジェンダー問題への見識は薄い。二人はコンビを組むが、鞍岡は志波の鋭さに感心する一方、その独特の態度にいら立ちもする。その二人が次第に距離を詰めていき、犯人に迫っていく。殺された中年男性の息子が3年前に婦女暴行事件で逮捕された仲間4人の一人で、その仲間の一人が有力者の親族で汚い手を使って示談に持ち込み不起訴となった過去があった。「ジェンダー・クライム」は、その事件を含めて、男女・夫婦の関係の危うさを問うている。

鞍岡のかつての上司は現在本庁刑事部長で政治家とも付き合いのある男。その上司との確執で飛ばされたが、志波もその刑事部長と関係があった。その刑事部長が、伊藤詩織さん事件の当時の刑事部長の生き写しとして登場してくるのは天童さんの一つの警察権力への抵抗か?

最後は意外な人物が犯人として鞍岡・志波コンビが特定するが、介護用の動力スーツが登場し、女性で死体を処理できるのか?という疑問に答えてくれました。

駄作が少ない天童さんのそれなりに読み応えのある作品でした。

今日はこの辺で。

青山美智子・田中達也共作「遊園地ぐるぐるめ」

ミニチュア写真家で絵本作家の田中達也さんが、遊園地の遊具などの独創的な絵を描き、それを基に青山さんがストーリーを書いた連作短編作品「遊園地ぐるぐるめ」を読了。

先ずは田中さんのミニチュアの絵の斬新でユーモア感のある絵に魅せられ、その何となうユーモアで幸福感満載の絵にストーリーを考えて書く青山さんの筆力にも感心する。8編の干支短編小説が描かれている。

  1. メリーゴーランド:バイト先で出会った大学生二人が地元の通称“ぐるぐるめ”と呼ばれる遊園地で初めてのデート。お互いに好きなのだが、遠慮がちに接する二人がメリーゴーランドに乗るのでした。
  2. 回転マシン:25歳の同い年で親友の二人の女性がぐるぐるめでお互いの友情を確かめ合う。
  3. フードコート:仕事を定年でリタイヤした男性が奥さんと二人でぐるぐるめに来てお互いをいたわり合う。
  4. ジェットコースター:食材加工用品の会社に勤める営業マンがピンチヒッターでぐるぐるめの営業に訪れる。そこで出会った聡明な母親の言葉に触発されいいアイデアが浮かぶ。
  5. イベントステージ:聡明な女性夫婦と二人の子供がぐるぐるめに来て、イベントステージで悪のキャラクターと善のキャラクターの違いを子供が親から教わる。
  6. スイングマシン:高校3年生女子4人組がぐるぐるめで、お互いの友情を確かめ合う。
  7. プール:ぐるぐるめでみんなを楽しませているピエロさんとオーナーの会話にほんのり。
  8. 観覧車:1~7の物語の総集編的締めのお話

以上ほんのりさせられる絵とお話でした。

今日はこの辺で。

南九州3都巡り旅行記

5月17日(日)~20日(水)、3泊4日の南九州、熊本、鹿児島、宮崎旅行を妻と一緒に楽しみました。この3県は今まで足を踏んだことがなく、初めての訪問。それぞれの県庁所在都市だけの観光でしたが、天気にも恵まれゆっくり楽しめました。

初日は羽田発10:00のANA便で出発。昼前に空港到着し、リムジンバスで先ずは水前寺公園へ。細川家の見事な庭園美を味わい昼食。その後市電に乗って熊本中心街へ。ホテルの荷物を預けてお隣の熊本城見学。その敷地の広大さから、熊本藩の力が窺えます。インバウンドの中心でもあるのか、外国人観光客が目立ちました。10年前の地震の復興途中ですが、天守閣の石垣は復旧し、上まで登って市内を一望。城のある街はやはり観光のシンボルです。ホテルは朝食のみであるため、夜は地元料理が自慢の居酒屋へ。普段はコースを利用するのですが、今回はアラカルト。コスパ的にはいまいちという印象。

翌日は鹿児島に向けて新幹線で出発。昼前に鹿児島中央駅に到着し、ここでも市電に乗り換え、ホテルに荷物を預けて桜島観光へ。市営交通の1,300円パスチケットを購入してフェリー、島内周遊バスで桜島観光。周遊バスということで島内一周かと思いきや、ほんの一部の周遊でした。その後フェリーで市内に戻り、市内の観光スポットである城山や天文館近辺を散策してホテルに正式にチェックイン。夕食は鹿児島の老舗「吾愛人」(わかな)本店での懐石料理堪能。こちらのコースには大満足。熊本と同じ金額でコスパ最高の食事を楽しみました。

3日目は霧島神宮経由宮崎のコース。最初から分かっていたのですが、たまたま火曜日の昼間の時間帯、日豊線が線路保守の為全面運休で振り替え輸送もなし。JR九州に文句を言いたい気分でしたが、妻から窘められやめましたが、朝は早めに霧島神宮駅まで電車で行き、駅からタクシーで霧島神宮参拝。もっと大きな神社かと思いきや、こじんまりした境内。その後は神宮前からバスで都城駅まで行き、更にここから電車で宮崎駅へ。この日はチェックイン後一休みして、食事は洋食のコース料理。こちらの料理も大満足でした。最終日は青島観光と市内散策で、夜の8:00はつのANA便で帰路につきました。宮崎空港にはJRが乗り入れており便利。熊本、鹿児島は市電が走っており観光には大変便利な街。南九州の旅は終了しました。

今回の三県旅行の結果、未だ足を踏み入れていない県が山口県と佐賀県となり、これから全都道府県制覇めざしてがんばる次第です。

今日はこの辺で。

柚月裕子「風に立つ」

柚月さんは一時「虎狼の血」シリーズのようなやくざもや、盤上の向日葵のような賭け将棋に命を懸ける男を描くなど、ハードな作品を手がけましたが、本作「風に立つ」はがらりと雰囲気が変わり、一人の少年を補導委託という形で預かった鉄器職人一家を描くという、イメージチェンジ的な作品。

小原悟は36歳の鉄器職人で、父親の経営する店で働く。父親の孝雄とは子どものころからそりが合わない関係で、父親が非行を働いた少年の補導委託を引き受けると聞いて反対の姿勢を示すが、迷惑はかけないという孝雄の言葉で引き下がらざるを得ない。そして、今まで家族を顧みなかった父親が、なぜそんな善行をやることになったかを不思議がる。少年、庄司春斗とは最初ぎこちなく対応していたが、孝雄や店で働く職人の健司さん、アルバイトで来た八重樫などの好意で馴染んでいく。だが、あるときたまったストレスが爆発したような態度をとったため、悟は補導委託を断れと父親に迫るが父親は応じない。健司や八重樫も逆に少年を心配するようにな優しく接する。そんな悟の心情が描写されるが、読者は孝雄と悟の関係をもどかしく感じるところ。少年は弁護士の父親の、勉強しろと言う態度や、父親に依存する母親に我慢ができず、些細な非行を繰り返してしまったのだ。少年を見守る孝雄や従業員たちにも影響され、悟は次第に少年を何とかしてあげたいと思うようになる。

こんな形で優しい人たちが少年に接する姿を描くという、淡々とした話だが、何となく心が休まるような話でした。ちょっと物足りないと思う反面、柚月さんの新しい作風への挑戦でもありました。

今日はこの辺で。

五十嵐貴久「PIT 特殊心理捜査班 水無月玲」

五十嵐貴久氏の作品は初めてかどうか忘れましたが、読んだとしてもかなり前。本作「PIT 特殊心理捜査班 水無月玲」は、警視庁刑事部にある組織、PITと呼ばれる心理捜査班の班長である水無月玲と、異動してきた蒼井俊という警察官を主人公とした警察ミステリー。俊は防犯カメラ映像をAIに読み込ませて犯人を割り出すことに長け、班超の水無月は車いすで生活する女性警察官。警視庁管内で若いOLがバラバラ死体で殺害され、

警視庁は組織あげての捜査を行うが、なかなか犯人像がつかめない。そこでPITによる犯人像の絞り込みが行われ、年齢、性別、体形、住所などが絞り込まれていくが、この事件の犯人はPITが予想した男ではなく女だったことから、内外からの批判も高まる。この事件とは別に弁護士殺害事件もPITに期待がかかり、犯人が警察関係者ではないかというところまでたどり着く。元警察官が殺害された事件との共通項もあることから、退職警官が浮かび上がり、ほぼ特定されるが、最後にはとんでもないどんでん返しが待っているという展開。これは「ずるい」とも思うような展開に、私としては拍子抜けした次第だが、水無月玲の正体に関わることだけとしておこう。

今日はこの辺で。