浅倉秋成「家族解散まで千キロメートル」

浅倉秋成さんの作品は「六人の嘘つきな大学生」に続いて二冊目。本作は、「家族」というテーマを、ロードムービー風に描いた作品ながら、実際に浅倉さんが描きたかったのは、最終部分の家族の在り方ではないかと感じる作品。

喜佐家は両親と長男、長女、次男の5人家族。長男は家を出て所帯を持ち、長女は家に帰らず職場か恋人の家に泊まることが多く、次男は警察官の彼女と結婚する予定の公務員。この家族でのけ者扱いされているのが父親。その父親は、かつて不倫に走り、それを目撃した次男はトラウマのように父親を嫌う。そんな家族が今住んでいる家を壊してばらばらに住むことになるのだが、ここで事件が発生。十和田湖の近くの神社のご神体の木像が自宅の倉庫から発見され、それを元日中に山梨から十和田湖まで返却するためロードムービーが始まる。それが千キロメートル。次男が語り部となって同行した長男、母親、次男、長女の婚約者が車で、長女と長男の嫁さんが新幹線で追う形で話が進む。いったい誰が木像を山梨の家の倉庫まで運び込んだのかというスリラー要素を含みながら話が展開。そして何とか無事にご神体は神社に戻るが、この事件を誰が仕組んだのかという謎が残り、そこから家族というものの姿のありようが語られる。ただ父親が何年もの間同じ屋根の下で、家族の誰にも気づかれずに住んでいたというシチュエーションは、どう考えても不自然。影の薄い父親とは言え、そこには衣食住が必ずあり、それが誰にも目撃されないという不自然さはどうかなと思った次第。

今日はこの辺で。

横関大「闘え!ミス・パーフェクト」

横関氏のヒットシリーズ「ミスパーフェクト」の第二弾、「闘え!ミス・パーフェクト」読了。前作同様、ミス・パーフェクトこと、真波莉子さんが自らのアイディアを十二分に発揮して、目の前にある課題を見事に解決する連作短編4作からなる痛快作。

1.       限界集落である某村を活性化させなさい:人口500人ほどの小さな村はどんどん人口が減って、おまけに高齢化も進む典型的な限界集落。この村を活性化してほしいというオファーがあり、若い女性コンサルタントとの競争プレゼンに勝利して活性化に挑む。彼女のアイディアは、村全体をキャンプ場として開放しようというもの。このアイディアを読んだ私は、信州小布施を思い出す。小布施では自宅通路なども開放して観光客を迎えている例。あながち突拍子もないアイディアでもないのかなあと思った次第。

2.       防止の給食センターの異物混入問題を解決し、ついでに客離れに悩む某キャバクラの売り上げを回復しなさい:二つ目の課題は学校給食を作るセンターで釘が混入した事件を調査してほしいと頼まれ、ついでに客離れが激しいキャバクラの復活をやり遂げる話。真波嬢は警察の操作以上の鋭い目で犯人を割り出し、キャバ嬢にはスポーツの話題を勉強させることによってキャバクラ復活を遂げる。

3.       ハラスメントだらけの棒バレーボールチームを改革しなさい:次なるオファーは監督によるハラスメントが横行するきぎょうのバレーボールチームを改革する話。真波嬢はチームのマネージャーとして潜入し、実態を把握。確かに監督は竹刀をもって選手を番号で呼ぶなどハラスメント的言動はあるが、根は愛妻家で子煩悩な男。それを見抜いた彼女は、キャプテンが妊娠して産休取得ができるようにしたり、最後はスポーツ労働組合を立ち上げ、女性の権利を主張していける組織風土を作っていく。

4.       厚労省のキャリア元官僚によるインサイダー取引疑惑を解明し、地に落ちた厚労省の評判を回復させなさい:という難しいテーマに挑む真波嬢。この元キャリア官僚は真波嬢が厚労省に入省したときの直属の上司で、とてもインサイダー取引をやるような人間ではないことから、謎を解いていく。元キャリア官僚は自殺するが、その裏には何があったのかを聞き取り調査して事件の真相を解明。同時に高両省の評判を回復するために、公務員レンタル制度を軌道に乗せることになる。

真波嬢は現総理大臣の隠し子という設定で、総理の意思決定にも深く関わるほどの活躍ぶり。真波嬢の活躍は、「成瀬は天下を取りにいく」の成瀬嬢に通じるものがある痛快作でした。

今日はこの辺で。

浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」

浅倉秋成氏の作品は初めてで、映画にもなった「六人の嘘つきな大学生」読了。浅倉氏の大ベストセラー作品で、就活を題材にした優れたミステリー。

IT系の躍進企業で最終選考まで勝ち残った、いかにも優秀そうな6人。最終選考は6人によるグループディスカッションで、6人全員が採用される可能性があると人事部長からも言われている。そんな彼らが1か月後のディスカッションに備え、準備を重ねるが、一週間前になって、採用は1名となり、ディスカッションはその1名を決めるためのものとなる。6人は予定通り揃い、一人を決める議論を始めるが、会議室の端に置かれた封筒が大きな方向性を狂わせることに。6人宛の封筒があり、リーダー的な学生がまず自分の封筒を開けると、そこには他の一人の過去の悪事のようなものが書かれていた。選考方式は2.5時間の間で30分ごとに各自が自分以外の人を選ぶ方式で、その蓄積点数で一人が決まる方式。その悪事が暴露されると、その人には点が入らなくなる。その悪事には代償があるのも特徴。そして話題は、誰がこの封筒を用意したかという犯人探しに移行。その結果、悪事の人間を写した写真の日付がわかり、その日にアリバイがない人間が犯人とされてしまう。彼は犯人ではないが、このゲームのような醜悪な修羅場での釈明を諦め、彼の好きな女性に一票を投じて退出していく。その一票の効果でその女性が選考され、入社することになる。時は流れて8年後。入社した女性のもとに、犯人とされた男性の妹から連絡があり、男性は病気で亡くなったが、女性宛の手紙のようなものがあることを告げ合うことに。そして、8年前のディスカッションの映像を見て、女性は真犯人を突き止める。女性はその真犯人の男性と会い、問いただして、彼は自分が犯人であり、それは会社の人事選考に対しての抗議だったことを告げる。亡くなった男性からのメッセージに入ったUSBメモリのパスワードをようやく解いて開いた彼女は、亡くなった男性が、真犯人を8年目に突き止めていたが、悪事の真実を突き止めてもいて、やはりそれらの悪事はデマだったことも突き止めていたのだった。

以上のような展開だが、久しぶりに短期間で読了するほどに面白い作品でありました。ちなみにすぐにamazonnで映画も干渉し、若干構成は変わっているものの、大筋は同じでしたが、小説の方が面白かった印象でした。

今日はこの辺で。

宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」

遅ればせながら、本屋大賞受賞の超話題作だった宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」読了。宮島さん自身が大津在住で、滋賀県随一の名門進学校である膳所高校(おそらく)→京大出身であろうことから、ご自身、又は当時の在校生を想定したのではないかと思われる作品。6篇の連作短編からなっており、主人公の成瀬あかりが中学2年生から高校3年生までの奇抜な活動などを描いた作品。

1.       ありがとう西武大津店:大津にある唯一のデパートが閉店することになり、地元テレビ局が1か月間デパートを撮影することになり、成瀬さんは毎日テレビの前に立って感謝の気持ちを表そうとする話し。この作品が文学賞を受けたことから、その後書下ろし作品を執筆し、本作が刊行されたといういきさつ。成瀬さんは1か月間の目標を達成。途中からその後漫才コンビまでくむ島崎さんも登場する。

2.       膳所から来ました:膳所は大津市内の地名で、成瀬さんの中学3年時の挑戦は漫才のMM-1グランプリ。親友の島崎さんを何とか説得してコンビを組み、尻込みしていた島崎さんも案外乗りがよくて、ゼゼカラというコンビ名でM-1グランプリを果たす。

3.       階段は走らない:この作品だけ成瀬さんが登場しない異例の作品。西武大津店の話にSNSで投稿していたタクローさんたちの同窓会の話。同窓会を開こうとしていたマサルさんたちが、連絡先が分からなかったタクローさんと再会する。

4.       鎖がつながる:膳所高校1年生になった成瀬が頭を坊主にして現れる。その訳は、高校3年間で髪が何センチ伸びるかを実際に実験するため。島崎さんとは別高校となり、本作での相棒は大貫かえでさん。同じ中学から進学してきたが成瀬とは関わりたくない。かるたの名門校で、かるた部に入部した成瀬と一緒になりたくないから、ひたすら東大を目指して勉強に勤しむ。そんな大貫さんはたまたま成瀬さんと東大のオープンキャンパスで出会い池袋の西武本店へ。そこで成瀬さんの人間性を感じ取る。

5.       レッツゴーミシガン:かるた大会に来た広島の高校生と交流があり、その高校の男子生徒と琵琶湖の遊覧船デートをする成瀬さん。成瀬さん初めての男子とのデートに成瀬さんらしくない感情も表現される。

6.       ときめき江州音頭:地域のお祭りに島崎さんと一緒に司会として登場する成瀬さん。そんな島崎さんが高校卒業と同時に東京へ引っ越すことを知り、寂しく思う成瀬さん。最も親しかった友人がいなくなることに悲しくなるが、島崎さんとの漫才コンビは続くことが確認出来て元気を取り戻すのだった。

「会談は走らない」だけがどうして収録されているのかという違和感がありましたが、成瀬さんの傍若無人的な人間性がよく描かれ、続編につながる読後感を感じる作品でした。本作は本屋大賞を受賞しましたが、これがもし直木賞候補作になり、審査員の作家諸氏がどんな書評を書くのか?相当な酷評も出るのではないかと想像した次第。本屋大賞と直木賞の温度差が出るのではないかと感じた次第。

今日はこの辺で。

長雨の中の東北・信州旅行(9月6日~10日)

猛暑の夏がまだ続くと思っていたら、突然の秋の長雨の空模様。そんななか3カ月以上前から計画していた大人の休日パスに合わせた東北・信州旅行を妻と一緒に敢行。初日の9月6日は郡山散策後に磐梯熱海温泉へ。郡山では神社やお寺、公園などの定番の徒歩散策。碌山公園の滝が流れていないのが残念でしたが、この日は雨は何とかもって、傘を差さずに済みました。宿泊は駅から近い一力さん。ハイクラス旅館ではありますが、特徴的なものは感じられず。夜から雨が激しく振り出したため、自慢の庭も散策できず残念でした。

翌日は今回の旅行での最大の雨被害。朝から乗るはずの磐越西線が終日運休。代行バスも出ず、路線バスに変更。しかしながら、ケチな私に対して、妻がタクシーを使いたい様子で、やむなく駅前に来たタクシーを使うことに。大体ネットで見た金額に収まりましたが、痛い出費。予約列車には間に合いましたが、ここでもハプニング。東北新幹線で人身事故が発生し一時運休で、やっと動いたところ。やむなく来た列車に乗車しましたが、運休の影響で満員。大宮までの達乗車を覚悟しましたが、幸運にも那須塩原で目の前の席が二つ開いたため座ることができラッキーでした。大宮での乗り換えで予約のあさま号に乗車し、長野で長電に乗り換えて小布施へ。小布施ではマローンのケーキを味わうはずでしたが、残念ながら15時で閉店済み。図書館によって再び長電で湯田中へ。本日の宿泊旅館であるあぶらや燈千まで歩きチェックイン。こちらの旅館もハイクラスですが、一力さんよりは特徴のある旅館で、自慢の料理は最高でした。

三日目は長野乗り継ぎで松本、更に乗り継いで大糸線で穂高駅下車。ここには碌山美術館という有名な美術館があり鑑賞。あいにくの雨のため、当初予定していた大王わさび農場はパス。14:50分に穂高駅で送迎バスで宿泊する安曇野穂高ビューホテルへ。ビューという名前通り、山の中腹からの眺めを期待しましたが、あいにくの雨で散歩にも行けず残念。こちらのホテルではフレンチの夕食を味わうことができました。

四日目も雨が心配されましたが、午前中は何とか降られずの日。穂高駅で帰宅する妻とは別れて私は白馬へ。白馬はインバウンドで土地の値段も上がり続けるところ。外国人ばかりかなあと思いきや、この日はそれほど外国人は見かけず。とりあえず駅前の食堂でとんかつを食べ、スキーのジャンプ台近くのホテルまで歩くことに。ところが歩き始めるとポツポツきはじめ、ちょうど中間地点の頃には相当強くなってきました。小さな傘を差し、地図を見ながらホテルを目指し、若干迷いながらやっと到着。15時前でしたがチェックインさせてもらい、冷えた体を温泉で温め、一息つきました。夕食レストランで欧風料理で、これまたおいしい食事を味わうことができました。

翌日の最終日、ホテルのご主人からサマージャンプが明日から二日間あり、今日の朝8:30から練習があると聞き、朝食後見学に。葛西紀明さんなど、有名ジャンパーも参加していて、豪快なジャンプを見ることができたのはラッキー。この日は風も雨もなく、気持ちよさそうに皆さん飛んでいました。その後ホテルの送迎バスで駅まで送ってもらい、松本で1時間ほど散策して帰路につきました。

雨の中の旅行となりましたが、磐越西線の運休だけで済んだことから、何とか楽しい旅行を終了出来ました。

今日はこの辺で。

寺地はるな「川のほとりに立つ者は」

寺地さんの作品二作目となる「川のほとりに立つ者は」読了。2020年1月から7月までの約半年間の出来事を前後に行ったり来たりして語られるヒューマンストーリー。

主人公の清瀬さんはカフェの店長で、難しい店員の指導などで忙しい日々。彼女の恋人がけんかで大けがを負った7月から話が始まり、時間を戻ったりして彼女周辺の人間関係が展開される。彼女の恋人の松木さんの難しい家庭状況、喧嘩するような人ではないという信念で付き合ってきた。一方松木さんは、字が書けない親友の樹さんに字を教えたり、樹さんが心を寄せる天音さんの人間性などが語られる中で、人間関係の複雑さを表現して物語が進む展開。

これといった事件や事故が起きるわけではないが、清瀬さんから見た周辺の人達の人間関係が中心テーマとなる話でした。

今日はこの辺で。

中山七里「ドクター・デスの再臨」

中山先生が安楽死問題を題材にしたミステリーの第二弾「ドクター・デスの再臨」読了。前作「ドクター・デスの遺産」と同じように警視庁捜査一課の犬養と明日香のコンビが、前作と同じような積極的安楽死を請け負う何者かが現れ、その正体を追っていくという展開。第一の事件はALS患者がネット上で依頼して、夫と娘さんにも内緒で安楽死する事件。2件目は老齢の有名女優が、女優らしく美しく死にたいという願望を伝え、同じように安楽死。3件目はがんに侵され、遺作を残して安楽死していく小説家。世間では安楽死問題ががぜんクローズアップされ、法制化を目論む与党国会議員たち、それを許さない野党という政局がらみの話も発生。警察は犯人を捕らえられない中、犬養刑事は、前作の犯人に助言を求める。その作戦は成功するが、安楽死は正当な医療行為で「死ぬ権利」を主張する安楽死賛成ネットワークは、前作の犯人を救い出そうとする結末。

この結末は何となく予想の範囲内で、ラストのどんでん返しと言うほどのインパクトはないが、この小説を読むことで、最後は苦しまずに死にたい、家族に迷惑をかけずに死にたいなどと思う高齢者や病人は、問題の複雑さに気付くのではないかと思った次第。

今日はこの辺で。