米澤穂信「国牢城」

米澤さんの直木賞受賞作「黒牢城」をようやく読了。戦国時代の信長が天下統一直前の時代、摂津の国、今の大阪北部地方の有岡城の城主、荒木村重を主人公として、信長の臣下でありながら謀反し、有岡城を堅牢にして信長軍を迎え撃つ村重の、約10カ月間の展開を、推理小説風に描いた得意な作品。村重自体は実在の人物で、有岡城での籠城作戦も事実であるが、四章に分かれた城内での出来事はフィクション。

村重が謀反したことから、信長側から説得をしに来るかつての仲間がいたが、その一人が黒田官兵衛。官兵衛は村重に勝ち目がないことをるる説得するが、翻意できず、村重は逆に官兵衛を地下の土牢に閉じ込める。その間の9カ月の間に、場内で不審な殺人事件が発生し、犯人を特定しないと場内の疑心暗鬼が広がり、士気に差し支える状況が生まれていくことを恐れた村重は、その都度官兵衛に相談に泥馬で相談に行くことになる。

  • 雪夜灯籠:村重の配下で、高槻城を任せる安倍家が信長に寝返り、安倍の人質である自念が殺される。殺すのが常ではあるが、村重は信長に対抗する形で決して今年はしなかった。ところが何者かに殺される。村重自ら部下を尋問するがわからず、官兵衛に話してあるヒントをもらい解決する。官兵衛の鋭さや如何に。
  • 花影手柄:有岡城には村重直接の配下の他に高槻衆と雑賀衆がおり、いずれも手柄を立て認めてもらいたいとうずうずしていることを察知した村重は、信長配下の大津伝十郎が有岡城そばに陣地を構えていることが分かり、高槻と雑賀に首をとって来いと命じ、村重自身も闘いに向かう。不意を突かれた大津勢は簡単に落ちる。高槻と雑賀は二つずつ株との首を持ち帰り、どちらが大津であるかを確認しようとするが、誰もわからない。村重は再び官兵衛に助けを求め、ヒントをもらって解決。
  • 遠雷念仏:城に通う人気の僧、無辺に村杉は光秀宛の書状を通信役として使うことに。無辺は茶室のある庵で一夜を過ごすが、何者かに殺される。これもまた官兵衛に助けを求めヒントをもらう。
  • 落日孤影:有岡城での籠城が9カ月となり、信長勢は周りを固めつつある。頼みの毛利は援軍をよこさず、兵糧は次第につきつつある中、村重は場内の懈怠が気になってしょうがない。そしてある事に気付く。無辺が殺された際に、何者かが犯人を鉄砲で撃っていたのだ。その弾を村重自体が拾っており、誰が鉄砲を持ち出したかを確認させたが誰もいないという。そこから内部に犯人を隠匿するものがいたことを。そしてそれが妻の千代保であることを。千代保はかつてつらい戦の経験があり、民の苦しさ哀しさを知っていたのだ。官兵衛に会いに行くと、彼から信長うちの策を授けられるが、それは村重に息子を殺された復讐のようなものだった。村重はそれに気づくも、城を出て毛利をめざす。
  • 終章:登場人物のその後が語られるが、村重は決して名殿様ではなく、結果的に多数の部下や民を犠牲にしただけだった。

440Pの長編で、時代考証も事実とフィクションを重ねる難しさがあったはず。読み応えのある作品でありました。

今日はこの辺で。

米澤穂信「本と鍵の季節」

米澤さんの飛びっきり楽しい連作短編推理小説「本と鍵の季節」読了。高校2年生の二人の図書委員、堀川次郎と松倉詩門が、鋭い観察力と勘で、五つの問題に見事な推理力を発揮する展開。

  • 913:二人の主人公は高校の図書委員会に所属し、放課後に図書室で図書に関する作業をする傍ら、他の生徒たちの持ち込む面倒な頼みごとを聞いて解決していくのだが、最初は浦上麻里という図書委員会の先輩女性から、亡くなった祖父の金庫を開けてほしいと頼まれる。浦上の家を訪れ、金庫はダイヤル式の数字あてだが、ヒントは祖父の部屋の書庫ぐらいしかない。そこにある3冊の書籍の記号番号などを利用して、数字を出すことにするが、それは浦上家の様子がおかしいことを気づいたから。実は祖父は存命で、浦上一家は企みを持っていたのだった。
  • ロックオンロッカー:堀川は友達紹介割引を利用して松倉と一緒に行きつけの美容院へ。その美容院では荷物のロッカーがあり、店長が「必ず」貴重品は携帯するようにと言って荷物を入れるロッカーに案内される。この美容院は40席もある大型店ながら、客は自分たち二人。閉店まじかとはいえ、異様な雰囲気。実は店内でスタッフによる盗難事件が発生しており、その囮調査をしていることを松倉は見抜く。
  • 金曜に彼は何をしたか:図書委員の後輩の植田君が、同じ高校に通う兄が教師に、テストの答案を盗むために窓を割って侵入した疑いをもたれているが、兄はアリバイがあると言っている。そのアリバイを部屋で探してほしいと頼まれる。二人は上田の自宅の部屋を探し回り、ある中華屋のレシートを見つけて、そこから兄が離婚した父親の病院に見舞いに行ったことが分かり、兄の無実は証明される。では誰が窓を割ったのか?松倉は何げなく「鳥が校舎内に入って来て逃げ場所がなかったから自分が割ったんだ」だった。
  • ない本:高校3年生が一人自殺したことが噂に上り、彼の友だちと言う長谷川という同級生が、彼が自殺する前に本を読んでいて何かを書いていたのを目撃した。その本は図書室から借りた本だったので、その本に遺書が挟まっているかもしれないので探してほしいと言ってくる。二人は図書館のルールとして、誰が何を借りたかを他人に見せることはできないが、どんな本だったか言ってくれれば、探すのを協力すると回答。二人は長谷川に誘導尋問的に本の特徴を聞き出し、その回答から、そんな本はないと理解する。実は長谷川は遺書らしきものを事前に預かったが、彼の死を止めることができなかったため、誰かが探してくれるように仕組もうとしていたのだった。
  • 昔話を聞かせておくれ:いつもの様に暇で静かな図書室。松倉が堀川に昔話で暇つぶししようと言い出し、二人はそれぞれ自分の体験を話す。松倉は、ある自営業者が金を貯めていたが、警察官から盗難事件が多発しているので、お金はどこかに隠した方がいいと言われたため、隠したのだが、その本人が突然亡くなり、それがどこにあるか、家族は知ることができない。その警察官は実は偽物であった、という話をする。堀川は、松倉の父親がその自営業者だとはじめは理解し、一緒にその場所を探すことに。そして父親が使っていたワゴン車を見つけ出し、ヒントらしきものを発見する。
  • 友よ知るなかれ::前作の後日談。堀川は松倉の話に疑問を持ち、図書館で6年前のある事件を見つける。実は偽警察官が松倉の父親で、両親は離婚し、母親は働き同士で体が心配。少しでもお金が欲しい生活。隠しているお金が欲しいのだと見抜く。堀川はその金を自分のものにするような犯罪はしないでくれと、親友として訴える。

各作品がそれぞれ興味を引くものばかりで、大変楽しく読ませていただきました。

今日はこの辺で。

辻村深月「島はぼくらと」

辻村さんの作品にもまずはずれがないのですが、本作「島はぼくらと」も、人口3,000人ほどの小さな瀬戸内海の島を舞台、朱里、衣花、新、源樹の4人の高校生と彼等の周りにいる徒たちとの濃密な人間関係をがいている青春ドラマ

4人の高校生は、毎日フェリーで隣の島の高校に通う2年生。島では同級生が4人だけで、4人とも個性があるが、仲良し。この小さな島では、村長が島おこし政策でIターン政策や地元産品の加工などの会社を立ち上げて、それなりに活気がある。しかし、高校はなく、中学卒業と同時に島との縁もだんだん遠ざかるのは仕方がないところ。でも、小さな村であることからコミュニティーは盛んで、血のつながりのない義兄弟制なるものまであり、結びつきが強い。4人の高校生はやがて本土の大学に大学や職を求める習わしながら、Iターン奨励により、4人が親しくするシングルマザーの蕗子さんや、おっとりした独身男性の本木さんなどとの交流が描かれる。

島おこしの一環で、村長が招聘したコミュニティーデザイナーのヨシノさんもその一人。ヨシノさんの活躍もあって、島をテレビで取材する話が持ち上がったものの、村長の横やりでトラブルになる話や、蕗子さんの子供の病気騒ぎから本木さんが実は医者だったことが発覚するなど、いくつかのエピソードが盛り込まれている。

4人のうち衣花さんは網元の一人娘で、島に残ることが運命ずけられている。朱里さんは看護系の大学を目指し、新は演劇が盛んな大学、源樹は理系大学から工業デザイナーを目指す。朱里と衣花はまるで本当の姉妹のように別れを惜しむが、朱里が看護師になって帰島する時には、衣花が村長になっている話が盛り込まれ、二人は熱い再会を果たすのだった。

今日はこの辺で。

辻村深月「ハケンアニメ」

辻村深月の才能の奥深さはどこまであるのか。彼女の作品には先ずはずれがないことに驚くが、そのエンタメ性は、これまた驚くばかり。そんな辻村の「ハケンアニメ」読了。

ハケンとあるので“派遣”だと思ったが、実は「覇権」アニメ。1クール12回のアニメの各局の作品で、最も優れた或いは儲かった作品に与えられる称号が「ハケンアニメ」。

本作は、その覇権を目標に、2つの作品の制作に携わった人たちの熱い物語。作品の一つは王子千春監督、有村香屋子プロデュースの“運命戦線リデルライト”略してリデルライト、、対するは斉藤瞳監督、行城理プロデュースの“サウンドバック奏の石”略してサバク。

王子千春は9年前の大手動画会社、トウケイ動画の社員監督で「光のヨスガ」を監督して一躍有名になったが、その後は鳴かず飛ばずで会社も辞めて今はフリー。有村はそのヨスガを観て感動し、王子と組んで覇権を目指したいと考え王子を引っ張り出す。しかし途中で王子が行方知らずになりピンチに。それでも諦めきれずにギリギリまで待って、漸く姿を現した王子を殴る。実は王子は1週間余りの間どこかにこもってストーリーを考えていたのだった。そして何とかリデルライトを完成させる。

一方の斉藤はトウケイ動画の社員監督として、若いながら覇権アニメを目指すべくサバクを行城と組んで製作していくが、何度か行城と意見の相違があるものの、斉藤を信じ切っていることが分かり、彼を頼りに制作を完成させる。

この二つのアニメ制作を一つの展開としつつ、もう一つの話がサバクのヒットを手掛かりに、物語の舞台となった新潟の小さな街で、スタンプラリーを行い町おこしをしようと奮闘する地元にあるアニメ会社の女性アニメーターと市役所観光課の職員の奮闘を描く。先細りの観光資源に起爆剤を与えるために、観光かの宗森はスタンプラリーを思いつき、伝説のアニメーターと言われ、サバクの絵も描いた並澤和奈に協力を求める。最初は尻込みしていたが、次第に宗森の情熱にほだされ熱を入れていく展開。

最終的に春のクールのハケンアニメは別作品となったが、サバクにしろリデルライトにしろ、監督やプロデューサーの熱意によって番組終了後もグッズの売れ行きなどが続くこの世界で、みんなが大きく成長した実感を持つことになる。

440Pの大作ながら、それぞれの登場人物の個性が生々しく描かれ、辻村さんの才能の奥深さを感じさせられました。同時にアニメ動画がどうやって作られていくのかを知る作品でもありました。

今日はこの辺で。

中山七里「こちら空港警察」

多作作家、中山七里先生の最新刊?に近い作品「こちら空港警察」読了。相変わらず読みやすく、軽いタッチの為、2日間で読み終えましたが、この作品も続編ができるかもしれない予感がします。

成田空港の防犯や事件解決に従事する千葉県警成田空港警察署は総勢140人の署員を抱える。そこに新たに仁志村賢作署長が赴任。中山作品でおなじみの高頭冴子刑事が空港のグランドスタッフである蓮見咲良に語る仁志村像は、酷薄・唯我独尊な人間。最初の咲良の印象は頭が低くて丁寧な人だったが、次第に高頭の言う人間像に納得がいってしまう。本作の主人公は高頭でも咲良でもなく仁志村その人。彼は署長ながら現場に出て事件を解決していく。

  • セレブリティ:咲良は地上職であるGSで、今は出発班担当。コロナ後に増えている覚醒剤の持ち込み事件で、アメリカからの大量40名の検挙及び有名お笑いタレントの検挙が描かれる。
  • ATB(エアーターンバック):カスハラ常習犯の累渕幸也が、ロンドン行き航空機に搭乗し、出発後にCAに爆弾を仕掛けたから成田に引き返せと脅す。機長は引き返し累渕は仁志村に自供。何とペットが死にそうだから引き返したというくだらない理由。累渕の人生はこれでおしまい。
  • イミグレーション:ウィグルから入国したアルフィアという女性のパスポートが偽造と見抜いた入国審査官の熊雷は女性を問い詰めるため別室へ。そこに中国人の公安と思われる者が訪れ彼女を引き渡せと抗議。これを断って女性から事情を聞こうとすると、空港内で発煙の知らせで熊雷は応援に。帰ってくると女性と同僚の呉羽が鋭利な刃物で殺されていた。犯人を捜すべく仁志村が登場して、桜の協力を得て確保。
  • エマージェンシー・ランディング、テロリズム:ニューヨーク行き旅客機がハイジャックされ、解散した女性アイドルグループを再結成しろとの要求を出す。荒唐無稽の要求で仁志村は何か別の企みがあると判断。主幹管制官の伊庭と情報共有し、勝手に動くなとくぎを刺す。しかし、仁志村の人間性に疑問を抱く伊庭は、ハイジャック犯の父親と兄を説得役に招き管制室に入れてしまう。その二人が実は共犯であり、空港の放棄を求める。伊庭は大失敗して、しかも部下の女性を人質に捉えられ、じくじたる思い。仁志村は、犯人たちの親族を完成党内の部屋に呼びよせ、彼らを人質にして犯人たちを説得して投降させる。

仁志村は唯我独尊傾向はあるものの、誰よりも犯人を憎み、庶民の命を守る男であった。

今日はこの辺で。

光文社文庫編集部編「Jミステリー2022」

旅行中に読もうと思って持参した、気鋭のミステリー作家6人によるミステリー集「Jミステリー2022」読了。旅行中はなかなか列車の中で読み進めず、帰宅してやっと読み上げた作品集。

  • 東野圭吾「リノベの女」:高級マンションを買った40代女性から、室内の改装を依頼された若い建築士の真世さん。依頼主の女性は歳の離れた夫が亡くなり、莫大な遺産を相続した方。その依頼主の女性に兄と名乗る男が現れ、父親の面倒を見るため金を出せと言ってくる。真世さんのおじさんは探偵並みに切れる人で、兄の正体と40代女性の正体も突き止めていく。その女性は本当の相続人が余命いくばくもなく、たっての望みで自分に成り代わってほしいと頼まれたのでありました。
  • 今村昌弘「ある部屋にて」:健吾は優里が諦めきれずに部屋を訪れ、口論となりかっとなって殺してしまう。何とか死体を処分しようとスーツケースに入れたところに、別の男が訪ねてくる。男は弁護士の白川と名乗り、優里から相談があると呼ばれていたと話す。健吾は自分が来たときは誰もいなかったと言い、白川は推理を働かせていく。健吾は死体が発見されるのは時間の問題だと考え、逆に白川を殺そうとするが、逆に白川に殺される羽目になる。
  • 芦沢央「立体パズル」:雄一郎は妻と子供二人で、幼稚園に子供の送り迎えをしたりしている。そんな街で5歳の男の子が33歳の男に刺されて死亡した事件が発生。その男は優秀な成績で東大を卒業して一流企業に勤めたがその後挫折したとのこと。男が育った家を買っていたのが雄一郎の息子の友だち。その友達は引っ越したことを知る。
  • 青柳碧人「叶えよ、アフリカオニネズミ」:ある研究所の副所長が何者かに殺され、名物刑事が謎を解いていく話。
  • 織守きょうや「目撃者」:高部陽人が帰宅すると、妻の彩花が血を流して倒れており、息がなかった。一人息子の朝陽は隣の部屋で眠って無傷。すぐに警察に連絡して、警察は事件か事故かの両面で捜査を開始。マンションの防犯カメラには怪しい者の姿は映っておらず、警察は陽人を疑う。陽人は浮気をしていたが、割り切った付き合いで妻とのトラブルはなかったが、浮気のことは警察には言っていない。更に警察も陽人も、息子の朝陽には何も確認していなかったが、女性刑事が朝陽の書いた絵を見つけ、そこに妻が倒れている絵があったのだ。刑事は朝日に、誰がママを痛めつけたのと聞くと、“おとうさん”との回答。陽人も驚くが、朝日は陽人のことを“パパ”と呼んでいたことから、陽人の容疑は晴れる。結局犯人は妻の浮気相手で、同じマンションに住んでいることから、防犯カメラには映っていなかった。そして妻は朝陽を連れてその男に会っていたことから、その男を知っていたのだった。
  • 知念実希人「黒猫と薔薇の折り紙」:6作の中で最も面白かった作品。大河は高卒後に料理人になるため東京のレストランに就職するが、恋人の同級生である美穂に一緒に東京に来てほしいとプロポーズする。美穂は承諾するが、直前になって美穂の両親から呼び出され、薄給で生活できない、結婚は許さないと言われ、一人前になって戻ってくると言って東京で7年間修業して戻ってくる。しかし、美穂は違う人と結婚していて子供までいたのだった。美穂にも会うが、彼女は謝るばかり。その後、事情を聴きにもう一度美穂を尋ねるが、彼女は亡くなっていた。大河は自殺するしかないと思う。タイトルの黒猫は、地縛霊を持っている人を探して解放してくれる猫のこと。黒猫は大河の夢の中に入って行き、美穂がやせていたこと、頭にウィッグをしていたこと、指輪を受け取っていたことなどをヒントに与え、美穂は結婚などしておらず、病気で亡くなったこと。そして大河の子供を育てていたことを知り、美穂の実家に向かう。

知念氏の作品に一番感動したのですが、その他の作品も味わいのある作品でありました。

今日はこの辺で。

青山美智子「赤と青のエスキース」

青山美智子さんの作品はまだ少なく、どれも人気があるので図書館に在庫が少ない状況。今回借りられたのが本屋大賞の2位にランクされた「赤と青のエスキース

エスキース”とは絵画の下書きというような意味。

第一章「金魚とカワセミ

メルボルンに交換留学生として渡った私ことテイさんはなかなか友達御できず英語も上達しない日々が続くが、日系のブーさんに出会ってからは、期間限定の恋愛を楽しむようになる。しかし帰国の期限が迫りつつあり、二人とも別れを悲しむ日々。帰国10日前頃に、同じ20歳のジャック・ジャクソンという若い画家にレイさんの肖像を描いてもらいたいとの申し出がプーを通してあり、それを受けることに。そこでジャックが描いた絵「エスキース」の物語が30年の彼らの物語の始まりとなる。

第二章「東京タワーとアーツ・センター」

空知君は美大を卒業して今は額縁職人の工房に勤める。彼が額縁職人を目指したのは、学生時代にメルボルンに行き、「エスキース」と出会い、その青と赤のコントラストに感動したから。この絵に相応しい額縁を作ることを目標に30歳の今日を迎えているが、将来への不安もある今日この頃。この工房に円城寺画廊から額縁の作成依頼があり、その絵の中に、なんと「エスキース」があったのだ。運命の出会いとばかり、空知はオーナーに自分につくらせてくれと頼んでエウキースにマッチした額縁を完成させるのであった。

第三章「トマトジュースとバタフライピー」

この話だけ若干横道にそれるが、砂川という若い才能ある漫画家が大きな賞を取り、一時砂川の師匠でもあった高島と雑誌の対談が行われる。その対談場所のカフェに飾られていたのが「エスキース」このお店は、円城寺画廊の経営者夫婦が、画廊を閉鎖して作ったカフェであった。高島は若い砂川から作品こそが人を助けるのだと教わることになる。

第四章「赤鬼と青鬼」

私は51歳の独身女性。1年前まで同い年の男性と長く暮らしていたが、別れて今は一人暮らし。昔の伝がある女性が雑貨店を経営していて、そこに今は勤めているが、体調が思わしくなく、暫く休みを取らされる。どうしても別れた彼に連絡する用事が出来て電話してマンションを訪れ、その後猫の面倒を出張があるので見てくれと頼まれる。猫はパニック障害と診断された自分に癒しを与えてくれるとともに、彼のやさしさに触れることになり、再び一緒に暮らすことを決断する。

エピローグ

ここで全ての人間関係が明かされる。第一章の交換留学生と期間限定恋人はレイとプー。この二人が円城寺画廊のオーナーで、カフェのオーナー。ジャックとレイとプーは30年間の繋がりがあり、空知とジャックは20年間の繋がりが。

レイとプーは紆余曲折があったものの、再び一緒になるというハッピーエンドとなりました。

大変味のある作品で、本屋大賞2位の価値があると思いました。

今日はこの辺で。