寺地はるな「川のほとりに立つ者は」

寺地さんの作品二作目となる「川のほとりに立つ者は」読了。20201月から7月までの約半年間の出来事を前後に行ったり来たりして語られるヒューマンストーリー。

主人公の清瀬さんはカフェの店長で、難しい店員の指導などで忙しい日々。彼女の恋人がけんかで大けがを負った7月から話が始まり、時間を戻ったりして彼女周辺の人間関係が展開される。彼女の恋人の松木さんの難しい家庭状況、喧嘩するような人ではないという信念で付き合ってきた。一方松木さんは、字が書けない親友の樹さんに字を教えたり、樹さんが心を寄せる天音さんの人間性などが語られる中で、人間関係の複雑さを表現して物語が進む展開。

これといった事件や事故が起きるわけではないが、清瀬さんから見た周辺の人達の人間関係が中心テーマとなる話でした。

今日はこの辺で。

中山七里「ドクター・デスの再臨」

中山先生が安楽死問題を題材にしたミステリーの第二弾「ドクター・デスの再臨」読了。前作「ドクター・デスの遺産」と同じように警視庁捜査一課の犬養と明日香のコンビが、前作と同じような積極的安楽死を請け負う何者かが現れ、その正体を追っていくという展開。第一の事件はALS患者がネット上で依頼して、夫と娘さんにも内緒で安楽死する事件。2件目は老齢の有名女優が、女優らしく美しく死にたいという願望を伝え、同じように安楽死。3件目はがんに侵され、遺作を残して安楽死していく小説家。世間では安楽死問題ががぜんクローズアップされ、法制化を目論む与党国会議員たち、それを許さない野党という政局がらみの話も発生。警察は犯人を捕らえられない中、犬養刑事は、前作の犯人に助言を求める。その作戦は成功するが、安楽死は正当な医療行為で「死ぬ権利」を主張する安楽死賛成ネットワークは、前作の犯人を救い出そうとする結末。

この結末は何となく予想の範囲内で、ラストのどんでん返しと言うほどのインパクトはないが、この小説を読むことで、最後は苦しまずに死にたい、家族に迷惑をかけずに死にたいなどと思う高齢者や病人は、問題の複雑さに気付くのではないかと思った次第。

今日はこの辺で。

伊与原新「藍を継ぐ海」

伊与原氏の直木賞受賞作「藍を継ぐ海」読了。表題作を含む5編の短編集だが、連作短編ではない。何故直木賞に先行されたのかだが、表題作が最もその答えを持っているからなのかもしれない。いずれの作品も、人間の何代にも渉る物語を繋いできた姿を描いている作品群であるという一致点。いずれも感慨深い作品でありました。

  1. 夢化けの島:主人公の女性は32歳の助教。研究にこだわって、ひたすら山口県萩沖にある小さな島、見島の岩石を研究する。しかし、准教授になる壁は厚い。そんな彼女が見島で一人の男性に出会い、その男性が萩焼の職人を目指していること、彼の先代が有名な陶芸家であったことを知る。
  2. 狼犬ダイアリー:狼を見たという少年と一緒に、その狼の正体を追う主人公は、都会のIT企業を逃げるように退職して片田舎でWEBデザイナーをしているが、なかなか溶け込めず、仕事もない。そんな彼女が、狼の専門家に出会い、狼と犬の変遷の歴史を知る。
  3. 祈りの破片:長崎の隣町の役場に勤める主人公は空き家の管理を担当。住民からの通報を受け、その空き家の中に入ると思いがけないものが。それが原爆で被災したがれきの収集品であり、かつて原爆投下直後の長崎で、爆心地調査をしていた男の遺品であった。
  4. 星隕つ駅逓:北海道の過疎の村で郵便配達をする男性とその妻。二人の間にやっと子供ができたが、妻の父親は最近元気がない。そんな村に衛星が火球として落下。捜索するアマチュアサークルの人達が必死に探す。妻は偶然意思を見つけ、それが落下した場所を偽ろうとするが。
  5. 藍を継ぐ者:かつてはウミガメの産卵地だった紀伊半島の町だが、堤防ができてからは上陸するカメが激減。久しぶりに産卵場所が見つかり、そこに住む少女がこっそり卵を掘り出して育てようとする。そこにカナダから来た青年が思いもよらないものを提示し、それが数十年前にこの浜から送り出したカメの証拠品だった。

今日はこの辺で。

高田大介「まほり」

高田氏は2013年にデビューしたとのことですが、詳細不明。そんな高田氏の書下ろし作品「まほり」をやっと読了。500ページ近い長編作品ながら、その多くは古文書の解読という形で展開し、高田氏がその方面の専門家と思わせる内容。巻末に参考文献などの記述がなく、本作に登場する古文書が実在するものなのか否かは不明ながら、想像するところによれば、実際に存在する古文書を引用しているのではないかと思わせる、行ってみれば古文書解析・解説の様相を帯びる作品。その中で主人公の大学生、勝山裕が、自分の戸籍を見て母親が記載されておらず、父親も教えてくれないことから、故郷である群馬県のとある集落の不気味が母親の存在を明らかにしてくれるのではないかと思い、いくつかの古文書や土地の郷土史家の協力も得て、その集落に伝わるおぞましい習慣にたどり着くまでを描く。大部分が古文書の引用と解読作業が占め、その辺は飛ばし読みして、やっと読み終わったのが実情。

その古文書の中で、江戸時代の度重なる飢饉や浅間山の大爆発によって、大きな被害が出て、姥捨て山ならぬ、子の間引き=生まれてすぐに子を殺害するという習慣が日本全国にはびこり、それを止めようとする幕府のお触れが出ていたことや、生贄のような行事が行われていたことを古文書や郷土史家の人の話から聞き、実際に現代でもそれが伝承されていることを突き止めて、少女を救い出すという結末、そして母親もその生贄の被害者ではなかったのかという結論に達するのであった。

今日はこの辺で。

原宏一「ねじれびと」

「穢れ舌」に続く原宏一氏の短編集作品「ねじれびと」読了。5作品か収納され、なかなか面白い作品群。

  1. 平凡組合:平凡組合と称する団体の集会に出席した主人公。ひたすら平凡こそ第一という話をするのが目的で集まる人たち。主人公のシゲキさんは平凡なサラリーマンだが、その集まりに次第に惹かれて行き、ついには全国規模の発表会に出ることに。シゲキさんが選んだテーマが「吉野家牛丼の最も平凡な男子の食べ方」というおかしなテーマ。しかしながら、そのプレゼンが大いに受け最優秀賞を受賞。シゲキさんは会社を辞め、平凡組合の中央組織に再就職。そこで知った組合の真の姿に愕然とするのだった。
  2. 逃げろ真紀:真紀さんと夫の大輔は妊活中。そんな大輔が、真紀さんがストーキングされていると言い出し、ストーカーという新聞配達員を見張りだす。真紀さんは大輔のしつこさが怖くなって逃げ出し、新聞配達員の家に転がり込むことに。でもその彼も真紀の親友の女性といい仲だった。
  3. 和彦さんはバツイチの40男。ある日美人のボブヘアのテツコさんと知り合い、テツコさんが戸籍もない鉄道改札内で育ったことを打ち明けられる。二人はテツコさんが生まれた岐阜駅に各停で旅行に出かけ、行く先々でテツコさんが鉄道駅の人と仲がいいことを思い知る。そんなテツコさんを改札の外へ連れ出そうとする和彦。結局それは叶わなかったが、無気力だった今までの生活を改めるべく、新しい仕事を見つけるのだった。
  4. エクスキューザー:若くして調達係のエース級になった文香は、言い訳上手。そこに目を付けた社長直々の命令でエク室室長となり、古い体質の社員の思考改革に乗り出す。社員から寄せられる失敗や苦情の始末をして実績を作り、社内改革をするはずだったが、突然発生した食品の賞味期限偽装事件に遭遇し、処理を一手に依頼される。会社幹部は偽装はしていないことを言い訳せよと言うが、実は事実であり、文香は正義のために会社を裏切ることに。
  5. ロング・ロング・シャワー:桑原さんは商社マンだが、まだ独り者。同僚に誘われて合コンに参加したが、その帰り際に実乃里さんという女性に声をかけられ、飲みなおししようと、下心をもって誘い、ラブホへ。だが、彼女が上司の娘だと知り、躊躇。シャワーを長く浴びて考えるも、逃げる手段が見つからない。困っている桑原さんに、実乃里さんは、実は初めての経験であること、桑原の上司の娘であることを打ち明け、父親がいつも桑原の話をしていることを告げられ、改めて付き合おうと決意する。

いずれも面白い作品で、原氏らしい物語展開でした。

今日はこの辺で。

原宏一「穢れ舌」

原宏一氏は1954年生まれと言いますから、既に70歳を超えたベテラン作家。大学卒業後コピーライターとなり、小説家となったのが1997年頃のようですから、かなり遅いデビュー。本作「穢れ舌」は、飲食業界の評価会社の女性社長が、顧客の要請の基づきその飲食会社が投資する価値があるかを評価するという連作短編三作。

  1. ユウコの厨房:評価会社を起業したのは牧村紗英さんは、他のスタッフ3名という小さな会社ながら、顧客には信用を築いてきた。「ユウコの厨房」は、かつては女優を目指したユウコさんが、今は人気料理研究家となり、その人気を活かして数店舗の飲食店を経営する起業家として名前を売っている。そのユウコさんの店の実態を評価してほしいとの顧客からの依頼があり、調査の結果、ユウコさん自身は操り人形のような存在で、料理は素人同然で、自家農園の食材というのも真っ赤な嘘であることから、紗英さんはユウコさんに調査内容を話し、ユウコさんは自分もこれ以上やっていられないことを悟り行動に出る。
  2. 酒蔵烏鵲:次の依頼は自家醸造で人気のある酒蔵の評価。この酒蔵は社長の奥さんの実家が営んでいたが、経営が低迷して閉店をしようとしていたが、奥さんの旦那さんが後を継ぎ、マーケティングが成功して、プレミアがつくほどの人気日本酒を醸造。更なる発展を目指している会社だが、紗英さんが調べていくうちに、自家醸造は真っ赤な嘘で、桶買をしていたことがわかる。その購買元の主人が亡くなったことから、社長は飲食コンサルタントにも相談して、次なる醸造蔵を探していくが、そこには大きな罠が待つ。奥さんは社長のやり方にあい層が尽きるのだった。
  3. すし海将:銀座の高級すし店「海将」が次のターゲット。早速紗英は店に行って試食しに来店、高級店にしては安価でまあまあの味。寿しだねが北海道と新潟の自家買いで安いとの説明を受ける。疑問を感じて早速作戦会議を開き、正直な店の店員も巻き込んで、テレビドキュメンタリーで告発することに。この購買方法などを含め、前二作でも登場する悪徳コンサルの告発も含めて告発することに成功。

飲食に関する評価は、現在は食べログやぐるなびで一般的になっているが、食に関するトラブルも多発する昨今。面白い作品でした。

今日はこの辺で。

天童荒太「昭和探偵物語」

天童さんが最後のあとがき(謝辞)で述べているように、かつて見た市川崑監督の横溝正史作「八墓村」を連想して書いた「昭和探偵物語」読了。

時代は戦後20年たったころ。尽忠村という田舎の村が、米軍将校の助言で「平和村」に改名することになり、そのイベントが開かれる直前に発生した村での殺人事件を、金田一ならぬ、鯨庭(いさにわ)行也が、その謎を解いていくというストーリー。

村出身の19歳の新人女優が新作映画に主演することになり、その宣伝もかねて彼女が一緒に来てほしいと頼んだのが鯨庭。彼はギターで流しをやるほか、探偵のようなこともして実績をあげていた。新人女優に脅迫めいた手紙が届いたことから、警視庁の国生刑事も同行することに。そこで起きたのが寺の和尚と和尚の甥っ子の医師が殺害される。村の名前が替わることに反対する勢力もいることから、村の分断が原因なのか、あるいは昔の因縁のようなものが関係しているのか?それを鋭く金田一耕助風に解いていく鯨庭の鮮やかな推理はお見事。登場人物の中で悪人はただ一人。かつて戦争を早く終わらせようとして米軍のスパイになったと言われた人間が誰なのか?その人間関係が暴かれていき、20年前に起きたおぞましい事件が今回の事件のもとになっていたのでした。

天童さんが楽しそうにこの物語を書いていたことが伺えました。

今日はこの辺で。