中山七里「作家刑事毒島」

中山先生の毒島刑事シリーズ「作家刑事毒島」読了。警視庁刑事だった毒島は、取り調べ中に容疑者が死亡したことの責任を取り警察を退職し、売れっ子作家に転身する。しかし、その犯人検挙率を買われて刑事の技能指導員になり、非常勤で警察職員を兼務している方。本書は、出版業界で発生した殺人事件を、毒島が鮮やかに犯人を特定していくという5編の短編小説。最初から容疑者は数名特定され、その中から真犯人を突き止めていく内容。面白いのは、出版業界の裏表を面白おかしく解説ふうに語り、いかにわがままな人たち、例えば新人賞に応募する若い作家の卵たちや、省を取ったばかりに2作目が書けない作家たちが多いかを作家である中山先生が面白おかしく暴露しているところ。

本作で異色なのは、奥さんが作家先生を殺害する「愛贖者」。ただし、途中で毒島が最初に奥さんと接触するところから、犯人は特定されたようなもので、どんでん返し調にはあらず。今どきではパワハラで社内処分ものの「原作とドラマの間には深くて暗い川がある」という長い題名の作品に登場する番組プロデューサー。部下や社外脚本家を言葉の暴力で辱める行為がこの世界では横行しているのか?数日前の朝日新聞に、映画現場でのパワハラをなくそうという記事がありましたが、常識の通用しないテレビ・映画業界の、特に下請け業者の人権が守られているのか、心配されます。

今日はこの辺で。

 

映画「あのこは貴族」

日本映画「あのこは貴族」を4月11日(日)、武蔵野館で鑑賞。

日本には現在貴族制度はありませんが、格差社会は急速に進行して、コロナ禍になって更に格差が広がっていると言われる。この映画はコロナ禍以前の撮影なのですが、冒頭の上級一族の元旦の食事場面から、私などはお目にかかったこともないような料理を見せられ、生唾を飲むような羨望、嫉妬を感じさせるようなヒエラルキーを感じさせます。そんな家族の28歳の女性の婚活を描くのが第一章、第二章は地方の高校で頑張って勉強して慶応大学に入学したものの、家庭の事情で退学せざるを得なくなる、いわゆる庶民の家庭に生まれた女性。二人の対照的なヒエラルキーに属する女性を主人公に、人間ドラマを淡々と描きます。女性監督らしい脚本と演出が、睡魔を感じさせない興味を抱かせます。

終盤の、上級に属する女性が離婚する過程や心境が詳しく描かれないところは、見る人に問いかけているような演出。東京の松濤という高級住宅街育ちの女性が名門家の男性と結婚して、その上級家族から逃げ出せないかたぐるしさに我慢がならなかったのか?

庶民出身の女性もまた、経済的事情から名門大学を退学せざるを得ないような苦労を重ねなければならなかった境遇からなかなか抜け出せない方ぐるしさ。

庶民出身で庶民から抜け出せない自分からすれば、上級市民にはなりたくない気分を味わいました。

今日はこの辺で。

中山七里「ヒポクラテスの試練」

中山七里のヒポクラテスシリーズ第三弾、「ヒポクラテスの試練」読了。シリーズ物は登場人物のキャラクターがわかっているので、すいすい読める利点があります。今週月曜日に図書館で借りた二冊、「合唱」と本作はいずれもシリーズものであることから、34日で読み終えることができました。

いま世界中が新型コロナウィルスによるパンデミックが発生していることから、これにヒントを得た作品かと思いきや、2017年に雑誌に連載された作品とのこと。ある意味先見性がある作品です。

前二作と違い、連作短編ではなく、体内寄生虫による突然死の原因を究明するというストーリー。いつもは古手川警部や真琴助教に指示を出すのが専門の水崎教授が、寄生虫によるパンデミックを発生させんがために、自ら警察や都議らに会いに行き、説得や要請をする場面もあり、パンデミックを恐れる姿が浮き彫りにされます。新型コロナと違い、口径感染が中心の寄生虫による病気のため、大事には至りませんでしたが、今作ではアメリカニューヨークまでが舞台となり、キャシー先生も大活躍します。

一番の読みどころは、アメリカに視察旅行に行った都議一向のうち、二人がエキノコックスという寄生虫により死亡し、残り五人にアメリカでの立ち寄り先を聞き出す場面。水崎教授自らが出張って要請するのですが、どこに行ったかを頑として言わない都議たち。その裏に隠された邪悪な視察旅行の一端が暴露されます。地方議会の議員による政務活動費の問題があちこちで明るみになる中、中山先生も地方議員への警鐘を鳴らしています。

都議たちのその後の悲惨な状況が描かれないのは残念でしたが、このような議員の存在が、日本の政治を堕落させていることも忘れてはなりません。

今日はこの辺で。

 

映画「パピチャ 未来へのランウェイ」「ニューヨーク 親切なロシア料理店」

43日(土)、ギンレイホールにて映画二題鑑賞。

日本のジェンダーフリー度が150か国中120位という記事が出て、男女差別状況が依然改善されていないことが話題になっています。特に政治、経済分野でのギャップが大きく順位を下げているようですが、五輪関係者の差別発言が証明する如く、意識の低い状況は改善されません。「パピチャ 未来へのランウェイ」は、1990年代のアルジェリアを舞台にした、ジェンダーギャップに苦しむ若い女性たちを主人公にした映画。イランのイスラム革命以降、イスラム原理主義が横行し、女性の自由が制限される国が増えるなか、アルジェリアもその例の漏れず、自由を求める若い女性たちに対して男はもとより年配女性からも大きな圧力がかかる。ヒジャブを着用しない女性には徹底的に弾圧的行為がまかり通っている社会。そんな中、女性服のデザイナーを夢見る女性が立ち上がって、学校内でファッションショーを開こうとする主人公を中心に、女性たちの抵抗の姿を映し出します。しかし、その実施までには数々の障害が発生し、そして実際のショーが開催されている最中には、悲惨な現実が待っている。日本の現在の状況も、銃器は出てきませんが、DVや差別発言など、ジェンダーギャップの状況は未だ道遠しです。

アメリカ映画「ニューヨーク 親切なロシア料理店」は、老舗ロシア料理店を舞台に、そこに集う心優しき人たちの人間群像を描くドラマ。過去に過ちを犯して出獄したばかりの店のマネージャーは、夫の暴力から逃げてきた子ずれの女性を匿う。そこにはDV被害者の受入れの実態なども描かれますが、ニューヨークでも避難場所は大部屋もいいところの、日本でいえば体育館のような災害の一時避難所の様相。また、逆にDV常習者たちの更生のためのボランティアをする女性の姿など、アメリカ社会の暗部を映し出すとともに、そうした人たちを受け入れる人たちのやさしさを描いています。途中睡魔が遅い、かなりの部分で寝込んでしまった関係で、全体像が理解できないため。中途半端なレビューとなりました。

今日はこの辺で。

 

中山七里「合唱」

中山七里の岬洋介シリーズ第3弾、「合唱 岬洋介の帰還」を一日で読了。「もう一度ベートーヴェン」の続編の趣のある作品で、本作はミステリー中心。従ってピアノ演奏の詳細な場面ば出てきません。

続編たる所以は、前作の語り人である天生検事が被告人となってしまうところ。岬洋介がピアニストを再び目指すきっかけを作った天生さんが、凶悪犯罪者の担当検事になり、取り調べ中にその凶悪犯人を銃殺してしまうという事件に巻き込まれる。天生が容疑者と知った岬洋介が、欧州でのピアニストとしての活動をキャンセルして、天生を助けるために日本に帰国。早速調査を開始し、弁護士を選任し、弁護士資格がないにもかかわらず特別弁護人となり、父親が主任検事と務める本事件を解決してしまうという痛快なお話。

完全なる密室事件ではあるが、天生以外に犯人と考えられるのは検察事務官以外に考えられないのですが、実際の捜査でこんなずさんなことが警察・検察で行われるのかは別として、とにかく捜査機関の不首尾をこれでもかこれでもかと見つけ出していくストーリーには、若干違和感はあるものの、エンタメ小説としては一級品の出来でした。

なお、本作には中山作品で主役を張る人物が多数重要な役で出てきます。ヒポクラテスシリーズの解剖医、光崎教授、埼玉県警の古手川警部、警視庁の犬養警部、そして御子柴弁護士などなどのオールスターキャストが楽しめます。

今日はこの辺で。

 

韓流ドラマ「モンスター」

Netflixにて韓流ドラマ「モンスター」鑑賞。何と全50話という長丁場ながら、見だすとすぐに次の回を観たくなるのは中毒のようなもの。「愛の不時着」以来、韓流ドラマにはまってしまったがために、どれだけ時間を損しているか?一面では反省中。

本作は一階の時間が60分弱なのでまだ見やすい方かとは思うのですが、それでも50回は長丁場。Netflixには1.2倍速と1.5倍速機能がある為、今回はすべて1.5倍速で鑑賞。海外物は字幕があるので、映像は早くなりますが、字幕で終えるのでほとんど気にならない環境で鑑賞できました。

さて、話は病院の子息が、両親を殺された恨みを晴らすために、奪われた製薬会社に入社し、殺人犯を追い詰めていくという話ですが、「モンスター」は誰を意味するのか。最後まで明確な回答はないのですが、主人公よりも両親を殺した悪役の男を指すような展開。とにかく、悪い奴は徹底的に悪く描き、敵を討つ主人公には大変な才能を与えて、再三のピンチを切り抜ける展開はスリリング。そして癒されるのは、韓国女優陣の活躍。高校生ぐらいの時に出会った女性が同じ会社に入社し、その彼女との恋愛模様やライバルとの確執、更に韓国情報院の女性スパイ、更には中国企業の同志など、多彩な人間模様の中で、信じたり、裏切ったり、刑務所に入ったり出たり、何でもありの復讐劇が繰り広げられました。恋人になる女優さんがとにかく美しく印象に残りました。

今日はこの辺で。

中山七里「もういちどベートーヴェン」

中山七里先生のベートーヴェンシリーズ第二弾、「もういちどベートーヴェン」読了。前作の「どこかでベートーヴェン」は、高校の学園ものでしたが、前作でピアニストになることを諦めた岬洋介が司法試験に合格し、司法実習を受けるなかで一件の殺人事件の謎を解明するというミステリーと、再びピアニストになることを決意するまでの物語。前作同様、殺人事件を鮮やかに解決して見せる展開も鮮やかではありますが、主題は天才岬洋介の魅力を中心に据え、司法修習の同僚である天生さんがその岬洋介の動向を追うという展開で、これもまた前作の手法を引き継いでいます。従って、岬が全日本ピアノコンクールの関東予選と全国大会でベートーヴェンのピアノ協奏曲を演奏する描写が詳細に描かれ、クラシックの音符も読めない小生にはちんぷんかんぷんの描写で斜め読みするしかない部分はありましたが、こうした天才を扱う小説は痛快ではあります。ベートーヴェン水戸黄門は全く似て非なるものですが、勧善懲悪的なラストが待ち受けているという安心感には、つい引き込まれてしまいます。ミステリー部分については、同性愛を絡ませて、鮮やかに謎を解く姿は前作以上のものでした。

次回の岬洋介主人公作品を早速探すことにします。

今日はこの辺で。