柚月裕子「盤上の向日葵」

柚月裕子作品「盤上の向日葵」読了。これまた560ページの大作。ただし会話が多い作品で、読みやすく、文字量としては400ページぐらいの物量なので、そんなに長編とは感じつ、かつぐいぐいと引き込まれる作品。中学生騎士藤井聡太の出現によって俄然盛り上がる将棋界ですが、そんなタイミングで発表された作品でもあり、人気があるようです。
小学3年生の上条桂介少年は、母親を失い、ろくに食事も食べさせず、虐待もしている父親のもと悲惨に暮らしていたが、唯一の楽しみは将棋。そんな彼が唐沢という元教師に出会い、将棋を本格的に教えてもらう。唐沢は桂介の才能を見抜き、将棋のプロを目指すため奨励会に入れようとするが、父親に反対され桂介のプロへの道は閉ざされることに。桂介は碌でもない父親のもとでも東大に合格し、父親との縁を切って東京に出ることになる。その際、桂介は唐沢から高価な将棋の駒を譲り受ける。
これが一方の主人公である上条桂介の物語の進行。また、もう一方では刑事の石破と佐野のコンビが3年前の殺人事件の犯人を捜査する話が進行していく。遺体は白骨で発見されたが、そこには高価な将棋の駒が一緒に埋められていたことから、重要な手掛かりとして、将棋の駒の持ち主を二人が追いかける展開。こうした犯人の物語と、捜査する刑事の物語が交互に語られる展開は清朝の「砂の器」がすぐに思い出されます。
桂介はアルバイトをしながら学業にも励むのですが、将棋が忘れられず、ある時将棋道場で、かつてのアマ名人で、今は真剣士=かけ将棋で食っている東明重慶と出会い、物語はいよいよ革新に向かっていくことに。
大変読みやすく面白いのですが、文句をつけるとすれば、最も犯人を特定しやすい、日本にいくつもないような将棋の駒を遺体と一緒に埋めたこと。事業に成功し、今は念願のプロ棋士を目指す頭脳明晰な桂介がそんな愚挙をするか?ですが、最後に明かされる出生の秘密にその答えを求めるという作者の考えがあったから、といえば言えないこともないのですが。
柚月裕子さんは山形に住む作家で天童は目と鼻の先。小説の中では将棋の場面がたくさん出てきて、細かは駒の動きも出てきて、将棋ファンならばその動きを頭に描きながら読めるのも魅力かもしれません。ちなみに私は詳しくないので、その辺は飛ばし読みしましたが、それでも大変に面白い作品でありました。まだ直木賞は「虎狼の血」で候補に挙がっただけですが、近い将来にはぜひとも受賞してほしい方です。
今日はこの辺で。