石牟礼道子「苦海浄土」

石牟礼道子苦海浄土」読了。
読むきっかけは、立教大学であった石牟礼道子氏の文学に関するシンポジウム。恥ずかしながら、今年2月に亡くなるまで知らなかった作家で、訃報の記事を読み、水俣病患者救済について大変な尽力があったということを読み知った次第。彼女の代表作である「苦海浄土」を読み、水俣病について少し勉強してみようと思った次第。この作品が、水俣病患者の悲惨さを世間に知らしめるのに多大な貢献があったことを聞いていましたが、その表現から十分納得しました。
氏が患者のところにあしげく通い、救済運動にも深くかかわった実績があるからこそかけた作品です。
私は、最初この作品が純粋なノンフィクションで、患者や家族が語る言葉はテープおこししたものかと思っていましたが、実は氏の創作であることを文末の渡辺京二氏の解説で知ることになります。しかし、作品中の患者や家族の言葉には決して嘘や誇張はなく、まさに患者が訴えたいことを、土地の方言で細密に描いたところに価値があります。したがって、この作品は間違いなく文学作品であります。この作品で、第一回大宅壮一ノンフィクション賞に選ばれましたが、これを辞退しています。辞退の理由はわかりませんが、ノンフィクションととらえてほしくなかったのか?
土地の言葉で書いていることから、読みにくい作品ではありますが、そこには本当の患者や家族の苦悩が嘘偽りなく描写されています。そして、加害企業であるチッソや国の怠慢も鋭く描かれています。
水俣病に関する文献や動画が数多く作られているようなので、早速何冊かを図書館で借りて読み始めています。またネットで動画もたくさんあるので、これから勉強していきたいと思っていますが、高度経済成長優先の当時の社会状況を反映して、チッソ有機水銀不知火海への放流は、患者認知から12年間続いてしまった事実、そして企業も国も県も市も待ったをかけることがなかった事実は、60年たった今日に至っても最終解決に至らない水俣病の悲惨な現実を残しています。水俣病は、まさに福島原発事故と重なり合う日本社会の深い社会病巣に起因している事件でしょう。
今日はこの辺で。