唯川恵の短編「天に堕ちる」読了。訳アリの女の短編が10編、それぞれの女性(一篇だけは男性)の名前を冠した短編小説で、幸せな気分を味わえるような、つまりはハッピーエンドにならないような話ばかり。
最初の一篇はやはり印象に残るもの。この主人公はりつ子という中年に差し掛かった女性。銀座のクリーニング店で副店長として働くりつ子は、客から預かった高級衣料品を拝借してセレブを装い、若い男の溺れてしまう女。騙されていることを自覚しながら貢いでしまう切ない女を描き、読んでいる方も切なくなります。こんな調子の話ばかりかと思って飛んでいると、次の「正江」は、出だしは不安定ながら、最後は何となくハッピーエンド的な終わり方。若干救われました。
一番印象に残ったのは「光」。主人公は唯一の男。女を装ってSNSで男とメールのやり取りをしていた出版社の倉庫に勤務している男が、最後には相手を失望させようとしていたものの、ある女性と知り合って恋を知り愛しさを知ったことから、今までの投げやりな人生を変えようとした矢先に、メールの相手が現れてとんでもないことに。これは本当に恐ろしい話。SNSで顔が見えないからといって、安心できません。
今日はこの辺で。