奥田英朗「向田理髪店」

久しぶりの奥田英朗作品「向田理髪店」読了。
北海道の、かつては炭鉱で栄えたものの、炭鉱がなくなり、箱モノ行政や映画祭などで町を活発化しようとしたものの、すべてうまくいかず財政破たんした町といえば夕張市。この夕張をモデルにして、架空の町「苫沢町」の名前に置き換えて、そこで繰り広げられる出来事を連作短編にした作品。
向田理髪店とは、この町に二つしかない理髪店の一つで、そこの50歳の主人を主人公にして、いくつかの物語が語られます。
若者の流出はとめどなく続き、残るは年寄りばかり。そんな希望のない町に、理髪店の息子が理髪店を継ぐといって帰ってきます。父親は先の希望のない町で理髪店をやっても食っていけないことから反対するのですが・・・・
この奥田作品にも中国人の花嫁を迎えた話が出てきます。嫁不足から、中国の女性とブローカーを通じて婚活し、お嫁さんを呼ぶのですが、40歳の花婿は、周りに引け目を感じているのか、紹介もしない・・・といった話です。これを読んで思い出したのが桜木紫乃の短編「波に咲く」。同じような話ですが、奥田さんと桜木さんの大きな違い。奥田作品は、暗さを全く感じさせない語り口。それに対して桜木作品は、北海道の冷たさ、寒さを感じさせる筆致。どちらが良い悪いは関係なく、まったく読んでいて風景が違うのは作家の個性そのもの。
とにかく奥田作品は過疎の町のさみしさを忘れさせてくれる温かみを感じました。
今日はこの辺で。