木内一裕「小麦の法廷」

木内一裕さんも初めて聞く名前で読むのも初めて。法廷もの好きの私としては、タイトルに惹かれて手に取った「小麦の法廷」

小麦とは女性弁護士の本名で、苗字は杉浦。名前の由来は後半出ててくる、小麦さんの実父である磯村麦さんからとった名前。苗字が違うのは、両親が離婚したため。父親も弁護士だったが不祥事に手を染め弁護士資格を剝奪され、今は刑務所に収監されている。

小麦さんは25歳で弁護士になったばかり。事務所があるわけではなく全くの一匹狼。ネット弁護士とも呼ぶべき存在で、主に刑事事件は国選弁護士を期待する身。知り合いのつてで引き受けたのが相続人探し。土地持ちの人の相続財産の相続人が二人いるが、一人が行方が分からず、探してくれたら数千万円の報酬がもらえるという案件。手掛かりが少なく、前の弁護士が投げた案件。持ち案件もないのでと受けることに。そして国選では、容疑者、被害者、目撃者がいずれも認めている暴行傷害事件。形式的な裁判で済むような案件だったので受けることに。この事件は神奈川の事件だが、警視庁から無罪にしてほしい旨、依頼がある。上記3人ともに認めて齟齬がない簡単な案件だったが、被告人が都内で3人を殺害した犯人で、暴行傷害はアリバイのための偽装だからとの理由。警視庁・東京地検と神奈川県警・横浜地検の意地の突っ張り合いで神奈川県警・横浜地検は取り下げようとしない。ここから小麦の活躍が始まる。この事件について、父親の意見を聞きに刑務所を訪れた小麦に対して、父親は「水掛け論」というヒントを与える。

なお、途中で小麦はこの面倒くさい事件を放り投げたい気持ちになるが、同時進行で受けている相続人探しを警視庁でしてくれという交換条件を出し、それがまんまと的中。相続人が見つかり、前科18犯という男に会い、その男が父親を尊敬していると聞き、「水掛け論」に利用しようと考え実行する。

裁判は被告側の意図に反して小麦が無罪を主張したため否認事件となり、裁判員裁判となる。予想通り、被告、被害者、目撃者は全て起訴状の通り認めるが、小麦は無罪を主張。最後の相続人を証人喚問して真っ赤な嘘の証言を行う。アリバイ確保のために有罪が欲しい被告や目撃者の悪の親玉たちは嘘の証言を繰り返す。これに対抗して、うその証言を相続人にしてもらったのだ。検察は起訴をとりさげ、一件落着。

それにしても、いくら仲が悪くても東京と神奈川で張り合って、重罪犯のアリバイを認めてしまったら、とんでもないバッシングを経緯刑事司法が受けることは明白で、前提にちょっと無理があるように感じたのは私だけでしょうか。この疑問以外は楽しく読めました。

今日はこの辺で。