太田愛「天井の葦」

太田愛さんの3部作、「幻夏」、「犯罪」、そして今回読んだ「天井の葦」。いずれも第一級のサスペンスであり、社会に向けてのメッセージでもある小説。「天井の葦」は上下巻、都合800ページに及ぶ大作ですが、その面白さに引き込まれました。
主人公は前二作と同じく興信所を営む鑓水、興信所で助手をしている修司、警察官の相馬の3人。3人三様の活躍場面がありますが、今回は鑓水が圧倒的な主人公。
渋谷のスクランブル交差点で老人が手を空に向けたまま倒れ死亡する。このポーズの謎の調査を引き受けた鑓水が、その後別件捜査していた相馬の事件と結びつき、巨大な権力に挑んでいくという大筋。
太田愛さんは、テレビドラマ「相棒」の脚本を手がけ、その中でも権力に立ち向かう杉下右京の姿を描いていますが、前二作同様に巨大な権力に立ち向かっていく3人の姿を通して、現在の日本が抱える政治や司法の闇を追及していきます。
今回のテーマは、太平洋戦争中の言論統制のような状況が現在の日本に迫っていることを暗に強調しているところ。秘密情報保護法、共謀罪、安保法制など、強行採決で着々と危険な法案を作り、最終的には憲法改正によって、緊急事態には政府が何でもできる国にして、戦争志向を強めているのは現在日本の最大の脅威。メディアは政権に忖度して情報をすでに操作している傾向が見られます。これは大本営発表をひたすら流し、不利な情報はすべて隠してしまった戦争中となんら変わらない状況を作り出しています。こうした現状を小説で訴えることによって、メッセージを投げかけている太田愛さんに感謝。したがって、皆さんにはぜひ読んでいただきたい作品です。太平洋戦争中の言論統制状況や、戦争遂行法案を詳しく記載しているので、当時の状況を詳しく知ることもできます。
但し、せめて500ページ程度にしていただければもっと読者が増えるのではないか、との私の希望はぜいたくでしょうか。
読んでいるうちに、黒幕の内閣官房副長官や与党の大物議員が頭に浮かんできましたが、これは決して単なるフィクションではなく、政治が私物化されている現状そのものであることを肝に銘ずるべきだと思いました。
今日はこの辺で。