白石一文「愛なんて嘘」

直木賞作家、白石一文の短編集作品「愛なんて嘘」読了。
白石作品は久しぶりに読みましたが、更に腕を上げたという印象。
表題の「愛なんて嘘」は、6作品が納められたこの短編集に共通な主題のようにも感じた作品集。
どの作品も味わい深いのですが、登場する女性、男性はいずれもモテそうな人達。特に女性たちは、あっという間に主に年上の男性に関係を持つような描写があり、晩婚化・未婚化が増える中で、現実の世界はこんなにも男女がすぐに関係を持つものなのかと、モテない私などはうらやましい限り。

「夜を想う人」は、DV男と別れた美緒子がエリート社員の与田さんと結婚を考えているが、与田がかつて1年間ほど結婚していた奈津という女性が与田のところに訪ねてきて動揺する話。奈津はジャグラーで身を立てる放浪者だが、そんな彼女に宿泊先を提供する与田のやさしさが美緒子には理解できない。しかし、奈津と話した美緒子は、与田と彼女のやさしさに思いをはせる。奈津は寂しく亡くなるのですが、もの悲しいラスト。
「傷痕」もまた年上の男と若い女性の物語。京大卒の超エリートで、次期取締役候補の巻田本部長から奇妙な失踪のお誘いを受ける。結局女性は約束の時間に行かないのですが、数年後の彼の使者が現れて彼女に巻田の消息を知らせ、彼女はすぐに飛び立つ。ここでも年齢差はかなりあるカップル。
「星と泥棒」も秀逸な作品。フリーのライターと、彼の親友の妻との物語。親友は突然亡くなり、妻はライターのところに居候。ライターと親友の妻の間には何があったのか。このカップルは同世代ですが、女性はいかにも魅力的なことがうかがえる作品。
しばらくは白石作品を集中的に読む気になりました。
今日はこの辺で。