小野寺史宣「タクジョ」

小野寺さんの作品はほんのり心を癒してくれる系で、本作「タクジョ」はその中でもピカ一に面白い作品。私はシリーズ二作目の「タクジョ みんなのみち」を最初に読んだので順番が逆になってしまいましたが、「みんなのみち」も面白い作品で、違うのは全ての短編で高間夏子さんが主人公であること。短編のタイトルは時系列の月と都内の場所で統一されていること。

  • 十月の羽田:高間夏子さんは大卒新入社員でタクシードライバーとして東央タクシー入社し4カ月経過。その日は飯田橋から若い男性を羽田空港まで乗せる。出張で札幌まで行くという男性は、若い女性ドライバーということで話が弾む、最後は名刺まで渡され、何かあったら電話くださいとも言われる。本編では高間夏子さんが母親と二人暮らしで、両親は離婚したこと。母親がやりての販売員だということ。夏子の勤務する営業所の主な登場人物の紹介など、プロローグ的な編。
  • 十一月の神田:夏子が大学時代に短期間付き合っていた同級生の男、響吾から直接配車依頼があり神田から本八幡まで乗せる。響吾はリース会社に就職したが、仕事がなかなかはかどらないことを愚痴る。だから夜飲んでしまう事が多いのだと。そんな響吾を慰める夏子。
  • 十二月の五反田:その日は五反田で客を下した直後に横浜までの新しい女性客。夏子はラッキーと思い、その女性客とも話が弾んで到着。支払いするときに「お金が足りない、すぐアパートに取ってくる」と言う。夏子は身分証かスマホを預かるか否かを迷うが、何も預からずに行かせてしまう。しかし、その女性客は帰ってこない。初めて籠脱けに会う。一方、母親からは見合いをしないかと言われ会うことに。森口というその男は誠実そうな公務員で。付き合うことになる。
  • 一月の早稲田:見合い相手の森口と早稲田で映画鑑賞。その後居酒屋で森口から、夏子がタクシードライバーをしているのが心配でならない。辞めてくれないかと懇願される。悩む夏子だった。
  • 二月の町田:上北沢で乗せた若い男を石神井公園まで。その男は役者だと言い、話好き。しかし公園近くなって民家のないようなところで停車され、「金を出せ」と脅す。夏子は恐怖を感じるが、男は冗談だと言って金を払って降りていく。夏子は二度とそんな冗談はやるなと言って憤慨。一方、新宿から町田に乗せた老紳士は、家電量販店に行くと言い、夏子が買った洗濯機の話をよく聞いてくれた。実はその量販店の社長さんであった。
  • 二月の江古田:夏子は森口の「タクシードライバーを辞めてほしい」という申し出に悩んでいた。そんな時、先輩の姫野から卓球に誘われ、自分が勝ったら会社を辞めるなという賭けをするが、夏子の圧勝。それでも夏子は、好きでなったタクシードライバーを続けていこうと決心し森口と別れる。そんな中、父親からタクシーに乗りたいとの電話がある。森口を紹介したのが実は父親だったことから、森口の件だと思いタクシーで向かう。父親は夏子のことも母親のことも好きだという。そしてもうすぐ再婚することを告げるのだった。

小野寺さんの筆致は淡々として分かり易く、ほんわかムードが漂う作品が多いですが、本作はその最たるもので、シリーズ第三作目を期待したい。

今日はこの辺で。