大門剛明「共同正犯」

大門作品三作目は、連帯保証人制度という極めて理不尽な保証制度に翻弄される人たちの物語を描いた「共同正犯」読了。 鳴川仁は、かつては製鎖工場に勤めていたが、今は居酒屋を営む人のいい青年。何か面倒なことを頼まれると断れないような、誰からも好かれ…

映画「サントメール ある被告」

10月24日(火)下高井戸シネマにてフランス映画「サントメール ある被告」鑑賞。 本作の大部分は法廷で、その法廷での質問や尋問、それに対する回答によって、ドラマの深層が次第に明らかになるという趣向。 アフリカ系女性作家のラマは、同じアフリカ・セネ…

大門剛明「罪火」

大門剛明氏の作品第二弾は「罪火」。罪火という言葉自体は造語のようで、ネットで辞書を引いても大門氏のこの作品や、これを原作にしたドラマの説明しか出てこない。この「罪火」が最終的にはキーワードとしてこの作品のどんでん返し的なストーリーを解くカ…

映画「遠いところ」

10月21日(土)、下高井戸シネマにて日本映画「遠いところ」鑑賞。沖縄のゴザで2歳の幼い息子を抱えて暮らす17歳の女性アオイが、過酷な現実に追い詰められていく救いのない映画。沖縄にはこうした現実があることも知る意味で貴重な映画です 沖縄の言葉や、…

秋吉理香子「自殺予定日」

秋吉作品は長さも短めで、軽く読めるミステリーに惹かれます。今回選んだ作品は「自殺予定日」 何不自由なく両親と幸せな生活を過ごしていた瑠璃さんでしたが、母親が亡くなり父子の生活に。でも大好きな父親との生活は楽しかったのですが、父親が若い女性と…

大門剛明「完全無罪」

大門剛明氏の作品を読むのは初めて。デビュー作「雪冤」が2009年の横溝正史ミステリー大賞を受賞している作家で、冤罪や法廷ものが多いようで、今後の楽しみが増えました。 本作「完全無罪」も冤罪を扱う作品で、警察や検察、裁判所を厳しく糾弾する内容。 …

秋の北陸旅行記

10月15日(日)~18日(水)、3泊4日の方陸旅行に妻と一緒に赴く。私の体調がいまいちで、直前まで個人的には迷った部分もありますが、妻が楽しみにしていた旅行であり、何とか踏ん張って挙行しました。 大人の休日倶楽部北陸は少々お高いものの、通年実施し…

真保裕一「正義をふりかざす君へ」

真保裕一作品を久しぶりに読む。「正義をふりかざす君へ」は、雑誌「続楽」に2012年から2013年にかけて連載されたもので、2013年に単行本化、丁度10年前の作品。真保氏は朝日新聞にも月一ぐらいのコーナーを持っていたと記憶していますが、社会的関心も強い…

楡周平「国士」

楡氏が少子高齢化・人口減少の現代日本の再生を描いたシリーズ、「プラチナタウン」「和僑」に続く「国士」読了。 イカリ屋というカレー食堂のチェーン店のアメリカ進出を機に、創業社長である篠原が外部招へいした相葉に社長業を託すが、相葉は篠原が描く日…

馳星周「約束の地で」

「少年と犬」で久しぶりに涙を流してしまった私は、続いて馳さん作品「約束の地で」を図書館で手にしてしまい読了。「少年と犬」もそうだったように、連作短編風に、前作でちょい役で出てきた人物が、次作では主役あるいは主役並みに登場する形で、馳作品の…

馳星周「少年と犬」

馳星周さんについては、「ソウルメイト」を読んで感動したのですが、それ以来の読書。本作「少年と犬」は直木賞受賞作品ですで読むのが遅くなりましたが、受賞に納得の感動作でした。 本作は6篇の連作短編で、いずれも「オール読物」に連載されたのですが、…

小川糸「食堂かたつむり」

小川糸さんの作品は初めて読みましたが、優しいタッチの人情ばなしがお得意なのか、あるいは料理にまつわる話が得意なのか、これから読み込んでいきたいと思いますが、本作「食堂かたつむり」は上記のいずれも含まれるほのぼのとしたお話。 主人公の「私」は…

「大河原化工機事件」における警視庁公安部の捜査に断罪を

2023.09.24(日)NHKテレビにて「冤罪の深層 警視庁公安部で何が」のドキュメンタリーが放映され、興味深く鑑賞。観ていてはらわたが煮えくり返る思いを持つ、極めて悪質な捜査が行われたことが語られる。 冤罪の対象になった大河原化工機さんは、社員90人ほ…

映画「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」

アメリカの闇というべき白人警察官による黒人への暴行・殺人がいまだに後を絶たない。本作「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」は、2011年11月9日にニューヨークで実際にあった事件を、90分という実際の事件の時間過程をそのままノンストップで撮り上げ…

映画「さらばわが愛 覇王別姫」

中国清朝末期から日中戦争、国共内戦、文革という激動の社会に生きた京劇俳優二人の人生を描いた香港・中国・台湾合作映画「さらばわが愛 覇王別姫」を下高井戸シネマにて鑑賞。1993年製作で、中国が1989年に発生した天安門事件を経て、改革開放まっしぐらで…

永井紗耶子「木挽町のあだ討ち」

永井さんの直木賞受賞作であり、現時点での永井さんの最高傑作と思われる「木挽町のあだ討ち」読了。本作は、木挽町という芝居小屋のある町を舞台として、そこで15歳の美少年剣士が、父親の仇を討つという大きな主題を軸に、この美少年剣士があだ討ちを果た…

湊かなえ「リバース」

久しぶりの湊かなえ作品「リバース」読了。 主人公の深瀬和人は、現在小さな事務用品店で働く26歳ぐらいの男性で、外回りの営業を担当。よく行く営業先の一つに大学のゼミ仲間だった浅見康介が教師をしている高校があり、ちょっとした事務用品の注文にもこま…

柚木裕子「ミカエルの鼓動」

柚木裕子さんが医療、とくに最先端手術に関わる問題に取り組んだ作品「ミカエルの鼓動」読了。470Pの長編ながら会話が多い分、分量としてはそれほどの長編とは感じませんが、それでも広範囲に話を広げている分、分量が多くなった作品。 主人公はミカエルとい…

永井紗耶子「女人入眼」

永井さんの鎌倉時代初期の京と鎌倉を舞台にした歴史小説「女人入眼」読了。主人公は京都の六上殿に仕える周子。彼女は京の朝廷内で勢力を二分する一人である丹後局の部下で、丹後局から鎌倉幕府と朝廷の絆を強めるための姻戚関係を作るため、頼朝と政子の娘…

2023年9月信州田澤温泉旅行

9月7日(木)~8日(金)の一泊二日で信州上田の田澤温泉に妻と一緒に小旅行。 昨年は上田の別所温泉に行きましたが、今回は青木村にある田澤温泉という静かな温泉。田澤温泉という名前さえ知らなかったのですが、じゃらんで検索しているうちにたどり着いた…

今年の映画鑑賞を振り返る(2)

モロッコ映画「青いカフタンの仕立て屋」:珍しいモロッコ映画ですが、情緒ある映画。夫婦は結婚衣装など、伝統的で豪華な衣装の仕立て屋を営むが、子供はおらず、奥さんは何やら病気がち。伝統的な技を継承するため若い男性を雇い、彼はなかなかの腕を持つ…

映画「あしたの少女」

本日はシネマート新宿にて韓国映画「あしたの少女」鑑賞。韓国で法律改正の切っ掛けにもなった話題の映画で、韓国の過酷な競争社会と労働環境を厳しく糾弾する内容。 韓国の一流大学への厳しい入試競争はあまりにも有名ですが、高卒で就職する生徒ももちろん…

映画「福田村事件」

数々の社会派ノンフィクション映画を手掛けてきた森達也監督が、初めて劇映画を渾身の力をかけてつくったのが本作「福田村事件」。ちょうど100年前に発生した関東大震災時の禍々しい事件である福田村における日本人行商人9名の殺人事件を、今日への強い警鐘…

今年鑑賞の映画を振り返る(1)

飯田橋ギンレイホールが閉館し、未だ移転先が見つからないようで、私の映画鑑賞数も減少傾向ではありますが、地元にある下高井戸シネマの会員になりそれなりに行っていて、更に新宿武蔵野館にも足を運んではいます。ただブログに書き込むことが中断していた…

窪美澄「よるのふくらみ」

「じっと手を見る」に続いて窪美澄さんの「よるのふくらみ」読了。本作も同じように「私」として出てくるのは保育士のみひろさん、みひろの中高の同級生だった祐太さん、祐太さんの兄でみひろと結婚前提に同棲した圭祐さんで、3人が二回ずつ、6篇の連作短編…

窪美澄「じっと手を見る」

1年前の第167回直木賞を「夜に星を放つ」で受賞した窪美澄さんの「じっと手を見る」読了。初めて読む女性作家ですが、大胆な性描写から度肝を抜かれるが、そこを我慢して読み進めると、味のある小説でした。 連作短編の形をとっているが、「私」として出…

永井紗耶子「商う狼 江戸商人 杉本茂十郎]

またまた永井さんの時代物「商う狼」読了。実在した江戸時代の商人で政治家に近づいて権勢をふるった杉本茂十郎の生涯を、茂十郎が兄と慕う有力な札差、堤弥三郎が老中となった水野忠邦に語り聞かせる形で話が展開。 茂十郎は甲斐の豪農に生まれ、18歳で江戸…

永井紗耶子「大奥づとめ」

「木挽町のあだうち」で直木賞を受賞し、時代物小説の売れっ子躍り出た永井紗耶子ですが、すでにその前から読み応えのある作品をたくさん書いています。その中でも飛び切り面白い作品が本作「大奥づとめ」。 本作は大奥づとめをした五人の女性の大奥での生活…

秋吉理香子「婚活中毒」「灼熱」

秋吉理香子さんの二作品読了。 「婚活中毒」は4編からなる婚活に関するブラックジョーク的な作品で、笑わせるとともに、現代の結婚事情を考えさせる物語。 「理想の男」は四十路に届こうかという女性が男性に振られ、実家に帰って地元の結婚相談所で理想的な…

読書履歴の簡素化

今までボケ防止も考えて、己の読書歴をできるだけ詳細に残そうと、概略ストーリーを書いてきましたが、手の腱鞘炎(ばね指)の状態が思わしくないため、簡略化することに。 久保坂羊「悪医」。久保坂氏は自身が医師で、その方面の作品が中心。本作はがんの手…