町田そのこ「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」

町田その子さんの初の単行本作品「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」読了。本屋大賞受賞作「52ヘルツのクジラたち」よりも3年前の作品で、緩やかな連作短編5作品が収録され、52ヘルツに似た匂いを持ち、これが町田その子さんの作風の原点かと思われる作品。

  • カメルーンの青い魚:サキコさんと啓太君は一緒に暮らす仲で、その関係は終盤に親子と分かり、即ちサキコさんはシングルマザー。今現在啓太君は12歳の中学生で、サキコさんのことをさっちゃんと呼んでいる。12年遡って、サキコさんとりゅうちゃんは、好き合う関係。でもりゅうちゃんは怪しい仲間と付き合っている不良。それでもサキコはりゅうちゃんが好きで愛しあって、りゅうちゃんは姿を消す。そして12年ぶりにサキコに会いに来たりゅうちゃんは、今度もまた長く帰ってこないと別れを告げる。だったら啓太にあってくれと頼むが、りゅうちゃんは啓太をサキコの夫か何かと勘違いするが、サキコさんが啓太はりゅうちゃんの子供だと告げ、りゅうちゃんは驚くが、それでは余計に会うことができないと、大金だけ置いて何も言わずに去っていく。恐らく刑務所に入る為ではないかと推測したのですが。
  • 夜空に泳ぐチョコレートグラミー:啓太と同級生の晴子さんの物語。晴子さんはクラスで友達がいない生徒でいじめられっ子的存在。そんな晴子が一緒に住む祖母を貶されたとき、男の生徒に殴りかかる。啓太は止めに入って、晴子の正当性を訴えて以降、二人は仲良くなり、お互いの家庭の事情なども語り合う。啓太の母サキコさんは、啓太の父親が住んでいるかもしれない大阪に引っ越すかどうか迷っていること、晴子は両親が離婚し、父親が再婚したがっているが自分が邪魔になっていることなど。結局啓太とサキコさんは残り、晴子は叔母のところに引っ越していくのだった。ちなみにその引っ越し先が最終話の桜子さんとなる。
  • 波間に浮かぶイエロー:軽食ブルーリボンという喫茶で働く沙世さんは、恋人に突然自殺されたショックの中でブルーリボンのオーナーである芙美さんに救われて働いている。芙美さんは前は男で今は女となっている方。そんなお店に環さんという女性が身重の身体でオーナーに会いに来る。環さんはかつて男だった芙美さんに、何でも一つ願いを叶えてやると言って別れた仲だが、それは15年も前の話。でも環さんを迎え入れ、沙世さんと同居。環さんは夫に浮気され、家を出てきたとの事情だった。芙美さんは環さんを説得して、本当は夫と別れたくない環さんは家に帰る。しかし、実は芙美さんと環さんは全く関係がなく、芙美さんが亡くなった人の代わりをしていたのでした。
  • 溺れるスイミー:唯子さんは32歳の会社員で、上司でもある立野からプロポーズされている。だが何かがその答えを阻んでいる。唯子さんは、宇崎という男にダンプカーに載せてもらい、それを契機に宇崎のところに出向いてトラックに載せてもらうことが多くなる。宇崎は、自分は職場をすぐに替えたくなる習性のようなものがあることを唯子に話し、唯子も実はそうなのだと告げる。宇崎は自分と一緒にトラックで過ごす生活をしないかと誘うが、その誘惑に乗りそうなところで思いとどまる。
  • 海になる:私が一番気に入った作品。桜子さんは3度の流産と一度の死産を経験。死産後、もう子供を産めない体になったことを告げられ、それから夫の暴力が始まる。ある日病院の帰り道、精魂尽きて気を失ったところで、酔っぱらいの男に助けられる。そして1年後、雪の日に夫に外に締め出され、死を覚悟したとき、再び同じ男に助けられる。そして更に暴力に耐えかねて死地を求めていた時に、三度同じ男に助けられ、二人はそれぞれ事情を話して、夫を殺してあなたも死ねばいいと言われ実行するができず、その男のもとに赴く。そこで、男は清音と名乗り、自分は妻をなくし、そんな絶望の時に3度も桜子にあったことを告白。桜子は夫と離婚し、清音と結婚。桜子は助産師の資格を取って沢山の子供を産む手助けをしてきた。清音とも幸せな結婚生活を送ってきた。そして、喜寿に近くなって晴子さんを引き取ることになった。

いずれの作品も、52ヘルツ以上に感慨深い作品でありました。

今日はこの辺で。