馳星周「少年と犬」

馳星周さんについては、「ソウルメイト」を読んで感動したのですが、それ以来の読書。本作「少年と犬」は直木賞受賞作品ですで読むのが遅くなりましたが、受賞に納得の感動作でした。

本作は6篇の連作短編で、いずれも「オール読物」に連載されたのですが、「少年と犬」初出が2017年10月号、その後「男と犬」が2018年1月号、以下は順番通りに掲載されていきます。本作では最後になっている「少年の犬」が最初に書かれ、以後最後の作品に結びつけるように他の5編が書かれたということ。馳氏が最初からこうした計算で書いたのか、あるいは「少年と犬」が好作品だったので後から付け足したのかは不明ですが、最後の物語ありきで、後付けで書いていく手法もあるのだなあと感心した次第。そんなわけで「少年と犬」の前段としての5編がより一層最後に盛り上がる作品となっています。

男と犬、泥棒と犬、夫婦と犬、娼婦と犬、老人と犬、そして、少年と犬の構成になっていますが、共通の主人公は「多聞」と名付けられていた賢い犬。多聞は岩手で東日本大震災にあい飼い主を失い、それから放浪の旅を続け、その間親切な飼い主に短期間ではあるが飼われ、その飼い主たちの癒しの存在として愛される。そんな多聞がいつも目を向けているのが南西の方向。それぞれの飼い主たちは、それぞれ大きな問題を抱えている人たちで、不幸な死を遂げるケースが多いのですが、多聞が見つめる南西方向に、多聞の大切な人がいるのではないかと察して、多聞が大切な人に逢えることを願いながら不慮の死を遂げていく。

そして震災から5年後に、奇跡的に熊本にたどり着き、これまた奇跡的に多聞が求めていた少年に出会うというのは、あまりにできすぎではあるが、涙なしには読めない部分でした。短い飼い主になる人たちは、がりがりに痩せている多聞を偶然見つけ、家に連れていき元気にさせ、やがてはその人になくてはならない存在となっていく描写が秀逸。最後の少年は、震災以来言葉を一切喋れなくなるほどの状態になったことから熊本に両親と移住。そこで多聞と出会い、次第に話すようになるが、更に熊本地震に襲われ、家が倒壊。多聞は少年を助けるために少年の盾になり、自らは死んでいくという、全て死にまつわる話で結ばれているのが、あえて言えば悲しすぎて残念というところもあるが、直木賞に値するすぐれた作品でありました。

今日はこの辺で。