大門剛明「完全無罪」

大門剛明氏の作品を読むのは初めて。デビュー作「雪冤」が2009年の横溝正史ミステリー大賞を受賞している作家で、冤罪や法廷ものが多いようで、今後の楽しみが増えました。

本作「完全無罪」も冤罪を扱う作品で、警察や検察、裁判所を厳しく糾弾する内容。

松岡千紗は29歳の若手弁護士。東京の大手弁護士事務所に所属し、主に刑事事件を扱っている。彼女には21年前に誘拐された苦しい経験があり、未だにそのトラウマに襲われる日々。そんな彼女に事務所の所長から冤罪事件を担当してくれないかとの依頼がある。それは彼女が誘拐された事件と結びつく可能性があり、これを承諾して、故郷の香川県に赴く。「綾川事件」は、少女誘拐殺人事件として警察が思惑で犯人を逮捕し、違法捜査で自供させた疑いがある事件ながら、無期懲役の平山は犯行を認めている。早速千紗は平山に面会し、二人の警察官の取調の違法性を追及していく。最新がそう簡単に認められることがないのは世間的には常識だが、本作では警察官の一人があっけなく取り調べの違法性を認めたことから、警察・検察への風当たりも大きく、すんなりと最新が認められ、無罪が確定する。しかし、たとえ再審無罪とはなっても、世間の目は変わらないことは今までの再審無罪でも明らか。千紗は、綾川事件の犯人が自分を誘拐した犯人と同一ではないかと確信し、真犯人を探し出す活動をする。一方、平山を取り調べた二人の刑事のうち、告白しなかった有森は、既に退官しているが、真犯人は平山に間違いないとして、証拠を探す。そんな有森に、平山が犯人である証拠があるとの怪しい電話がある。綾川事件とは別に、もう一人の行方不明児童がおり、その遺体の隠し場所が告げられる。そこに平山の髪の毛を置けば平山を犯人にできるとの誘い。その電話の主はもう一人の告白刑事にも同じ電話をしていて、実際に遺体と犯人の毛髪も発見され、平山は再び別事件の犯人にされる。そんな平山が姿を消した。平山は、綾川事件時に平山を目撃したという証人の老人に会い、その老人が犯人であったことを知り、あとは二人の刑事に復讐することを考えていたのだった。

本作は典型的な冤罪の作りだされ方、即ち、犯人と見極めたものについては、どんな方法を用いても自供を引き出し、突っ走るという警察の体質。平山は自供していないにも拘らず、二人の刑事は妹に自供したと伝え、妹は自殺。その自殺を聞いた平山が自供したのだ。再審無罪になっても、妹にはそれを知らせることができない。それが許せないのだった。

平山は刑事一人を急所を外して刺し、傷害の罪で逮捕されるが、彼は再び獄に繋がれるかまでは、本作は記さない。穏便な判決を願ってしまうの人情ではないか。

今日はこの辺で。