永井紗耶子「商う狼 江戸商人 杉本茂十郎]

またまた永井さんの時代物「商う狼」読了。実在した江戸時代の商人で政治家に近づいて権勢をふるった杉本茂十郎の生涯を、茂十郎が兄と慕う有力な札差、堤弥三郎が老中となった水野忠邦に語り聞かせる形で話が展開。

茂十郎は甲斐の豪農に生まれ、18歳で江戸に出て定飛脚を営む商家で働き、その才覚が認められ婿養子に入り、商売を繁盛させ、役人に手を伸ばして飛脚の手間賃を値上げすることに成功、更には十組問屋と言われる大店をも動かす力を得ていくが、最後はお上という権力に翻弄されすべてを失うまでが語られる。そこで語られる茂十郎の思想は、お金を商人や役人が貯めるのではなく、「金は天下の回りもの」を実践し、江戸の町民の生活向上を目指すものであったという美談。

NETで探す限り、杉本茂十郎の商人としての才覚は、自分のやりたいことを実現するため、冥加金を商人から集めることで役人に取り入って、更に権力を握っていくという障害だが、本作では、ただの金の亡者ではなく、当時の徳川斉昭のわがまま放題と、それに吸い付くように付き従う役人や商人で町人や農民の暮らしが悪くなっていることを憂いての行動であるという善玉的描写。歴史的評価はどちらなのか?

いずれにせよ大変勉強させられる作品でありました。

今日はこの辺で。