窪美澄「じっと手を見る」

1年前の第167回直木賞を「夜に星を放つ」で受賞した窪美澄さんの「じっと手を見る」読了。初めて読む女性作家ですが、大胆な性描写から度肝を抜かれるが、そこを我慢して読み進めると、味のある小説でした。

連作短編の形をとっているが、「私」として出てくる主人公は介護学校の同級生で、故郷の別の施設で働く日奈と海斗、日奈が一時同棲する都会人の宮澤、海斗が一時同棲する畑中真弓さんの4人。舞台は富士山が見えて、近くに湖があるという表現から、山梨県東部の町。介護職で働く日奈と海斗は、海斗の片思い的な側面もあるが恋人のような関係。そこに都会人で資産家の家に育った宮澤が現れ、日奈は宮澤に夢中になり、海斗を置いて宮澤を追う。そんな日奈を心配するものの、同じ介護施設に入社した畑中真弓に言い寄られ同棲。結局日奈は海斗の元に戻るのだが、日奈と海斗の25歳ぐらいから30代前半までの生きざまを生々しく描いた見事な作品。特に介護職という厳しい職業を背負う二人のいくすえがどうなるかと次の展開が気になる。10年弱の二人を追う物語で、二人とも介護職という職業を続ける中で本当の大人になっていく過程が描かれるのだ。慢性的な人手不足、腰痛などの身体的な苦痛、安い賃金で将来的な展望も見えない職業の中で懸命に生きていく姿には感動する。性行為の描写は、そんな中では埋没してしまう。

少子高齢化で、介護の必要な人は増える一方の現代社会にあって、特に産業のない地方にあっては、くいっぱぐれがない職業として入職者は多いが、離職者も多い介護の現実を二人の成長と同時に語ってくれて、興味深い作品でした。

今日はこの辺で。