宮内悠介「ラウリ・クースクを探して」

宮内さんの作品は初めてで、本作「ラウリ・クースクを探して」は直木賞候補作にもなった作品。既に直木賞ノミネートは「盤上の夜」、「ヨハネスブルグの天使たち」、「あとは野となれ大和撫子」を含めて4回、更に芥川賞にも「カブールの園」、「ディレイ・エ…

中山七里「祝祭のハングマン」

新年最初の読了作品は、中山先生の「祝祭のハングマン」。ハングマンとは、“私刑執行人”という意味で、法律上の罰を下せない犯人に対して、私刑を執行するお話。 春原瑠衣は警視庁刑事一課の女性刑事。父親との二人暮らしだが、父親が勤務するゼネコンんで。…

中山七里「特殊清掃人」

多作で知られる中山先生が、今度は新たなシリーズになりそうな「特殊清掃人」をお書きになり、第一作として4編の連作短編が展開される。 特殊清掃人とは、孤独死などして長期間発見されず、遺体が腐敗してしまい、住んでいた部屋が汚染されてしまい、それを…

東野圭吾「沈黙のパレード」

湯川博士のガリレオシリーズの長編「沈黙のパレード」を読了。映画で見ていましたが、ほとんどストーリーも覚えておらず、東野先生らしい読みやすさと、最後の一ひねりに納得。 都下の菊野市という架空の街が舞台。たまたま湯川の研究施設があり、事件と向き…

映画「枯れ葉」

フィンランド映画界で巨匠と呼ばれるアキ・カウリスマキ監督が5年ぶりに撮った作品とのことで、大変口コミの評判が良いので、新宿シネマカリテにて「枯れ葉」鑑賞。 同監督は小津安二郎作品の信奉者とのことで、小津作品の特徴がみられると思っていましたが…

東野圭吾「透明な螺旋」

東野作品を読むのは久しぶりで、ブログを見ると2021年4月の「11文字の殺人」以来でした。その間にもたくさん書いているのに、東野さんには大変失礼と謝りたい心境です。 今回読んだのが「透明な螺旋」という作品ですが、相変わらず読みやすく、東野先生の本…

五ノ井里奈「声をあげて」

2020年4月、自衛隊に入隊した女性、五ノ井里奈さんが、6月までの前期教育を終えて配属された郡山駐屯地で受けたセクハラを“声をあげて”訴えた経緯を綴ったノンフィクション「声をあげて」読了。 自衛隊という男社会、階級社会では、一般企業のようなセクハラ…

小野寺史宜「ライフ」

小野寺作品を4作読んで、彼の作風がわかってきましたが、本作「ライフ」もまた典型的な小野寺調の作品。 井川幹太さんは、江戸川区の荒川沿いのアパート、筧ハイツ102号室の住人。総武線白井駅が最寄り駅ながら駅までは若干徒歩で時間がかかる場所で家賃も安…

映画「燃えあがる女性記者たち」

インドはカースト制度が今でも厳然と残る国。モディ首相以来、ヒンズー教至上主義が強くなっているのは、世俗主義中心だったトルコが、エルドアン大統領がイスラム教重視になっているのと同じように、何か似ている。そんなインドのカースト社会でも底辺とい…

浅田次郎「母の待つ里」

浅田先生の作品も久しぶりで、本作「母の待つ里」は昨年2022年に単行本としてはこうされた最新作。 世界有数のカード会社が日本で試験的に実施している「ホームタウンサービス」は、35万円の年会費を払っているプレミアム会員向けの、ふるさとの擬似母親との…

映画「熊はいない」

イランの反骨の映画作家、ジャファル・パナヒ監督の不思議な映画「熊はいない」を下高井戸シネマにて鑑賞。パナヒ監督は、イランの反体制的な作品を作ることから政府ににらまれ、有罪判決を受け、映画製作を禁じられている身。それでも反骨精神で撮り続けて…

白石一文「彼が通る不思議なコースを私も」

白石さんの作品のタイトルは結構長く、内容を予感させるものがあります。本作「彼が通る不思議なコースを私も」もその一つ。 本作の主人公は澤村霧子さんと椿林太郎さん。二人は霧子の女性友だちの恋人が、ビルの屋上から自殺を図る場面で初めて出会い、一週…

小野寺史宜「夜の側に立つ」

小野寺作品四作目は、ちょっとナイーブっぽい男性の約20年間を追った「夜の側に立つ」。 タイトルと内容の関係がいまいちわかりにくいのですが、生真面目な高校生が40歳の中年までに通ってきた人生のトピックを、順不同で並べて描いている変わった作品。 野…

年末の東北温泉旅行

大人の休日倶楽部を利用した東北温泉旅行を12月3日(日)~6日(水)に妻と一緒に行ってきました。私の体調がすぐれず、最後まで不安があったのですが、何とか回復し挙行出来ました。 初日は東京発9:08発のゆっくりした出発。秋田新幹線の大曲経由で湯沢へ…

年末の東北温泉旅行

大人の休日倶楽部を利用した東北温泉旅行を12月3日(日)~6日(水)に妻と一緒に行ってきました。私の体調がすぐれず、最後まで不安があったのですが、何とか回復し挙行出来ました。 初日は東京発9:08発のゆっくりした出発。秋田新幹線の大曲経由で湯沢へ…

門井慶喜「天災ものがたり」

門井慶喜氏の作品は初めて。朝日新聞か何かの書評に載っていたのが読むきっかけで、こうした物語も、過去の災害を知る上でも面白い。 1.「一国の国主」は、1540年代の信玄こと武田晴信の若かりし頃の水害対策を描いたもの。甲府盆地には釜無川に御勅使側が…

小野寺文則「いえ」

小野寺さんの作品3作目は、主人公の家族の物語「いえ」。 三上傑さんは、大学を卒業後スーパーに就職3年経過した25歳の青年。家族は高校の共闘を勤める父親の達士さん、母親の春さん、妹の若緒さんの4人家族。家は江戸川区の荒川沿いにあり、総武線の平井駅…

小野寺史宜「タクジョ!みんなのみち」

小野寺さんの作品「ひと」が気に入って、暫くは小野寺作品に夢中になりそう。今回選んだ作品は「タクジョ!みんなのみち」。 「タクジョ」って何だろうと思っていたら、タクはタクシーでジョは女子。ただ本作では女性タクシードライバーばかりが出てくるわけ…

小野寺史宜「ひと」

小野寺さんの作品も今回初めて接します。タイトルの「ひと」は、人間の正しい生き方を教えてくれる話という意味でも非常に適切なもの。 主人公の柏木聖輔さんは、鳥取生まれの鳥取育ちだが、高校生の時に父親を交通事故で亡くし、大学入学後のついこの間に母…

額賀澪「青春をクビになって」

額賀澪さんの作品を読むのは初めてながら、胸が締め付けられるような内容で、読みごたえがありました。 主人公は瀬川朝彦さんという35歳のポスドク。古事記を研究する博士で、大学院の修士、博士課程まで修め、とある大学の臨時教員をしている方。その瀬川さ…

寺地はるな「私の良い子」

青山美智子さんの本を薦めてくれた青年から、寺地さんも薦められ今回呼んだのが「私の良い子」。 小山椿さんは二人姉妹の長女で、会社勤務をする31歳。椿さんの妹の鈴菜さんは、椿さんとは正反対の自由奔放型で、ある日子供を産むと言って父親と椿さんの住む…

映画「春に散る」

佐藤浩市と横浜流星のW主演でボクシング世界チャンピョンを二人で目指す日本映画「春に散る」を下高井戸シネマにて昨日鑑賞。11月4日の土曜日から下高井戸シネマにて上映されており、私は5日(日)に上映直前に行ったのですが、満席の表示。ところが8日(水…

青山美智子「お探し物は図書室まで」

スポーツジムの若い読書好きの青年から紹介してもらった三人の作家、青山美智子さん、小野寺史宜さん、寺地はるなさんのうち、まず最初に青山美智子さんの「お探し物は図書室まで」を読了。 五つの連作短編形式になっており、通して出てくるのが図書室の司書…

大門剛明「この雨が上がる頃」

大門作品六作目となる作品は、全て「雨」がタイトルに着く7編の短編集「この雨が上がる頃」。連作ではなく、すべて独立した物語で、あえて言えば滝川検事という方が、二つの物語で登場するが、一方はほんのちょい役で、話も全く関係ない。いずれの話も最後に…

大門剛明「テミスの求刑」

大門作品五作目は、検事と検察事務官の心理的葛藤を描いた「テミスの求刑」 田島亮二は津地検のエース検事で、東海最強の割り屋と言われる自供を引き出す名人検事。そんな最強検事が、かつて取り調べて自供させた事件の犯人が、獄中で自殺。父親が人殺し検事…

大門剛明「シリウスの反証」

大門作品四作目は、これまた冤罪事件を扱った「シリウスの反証」。 東山佐奈さんという弁護士資格を持つ大学の准教授が立ち上げた冤罪事件を雪冤するプロジェクト「チーム・ゼロ」のメンバーが、4人の親子を殺害した強盗殺人事件の冤罪を晴らしていく過程が…

映画「愛にイナズマ」

10月29日、新宿ピカデリーにて日本映画「愛にイナズマ」鑑賞。レビューの得点が4.0で、評判もいいようなので鑑賞したのですが、午後一の一番眠い時間帯にもかかわらず、その面白さに魅せられ、眠ることもなく楽しめました。 松下茉優演じる女流映画監督は自…

大門剛明「共同正犯」

大門作品三作目は、連帯保証人制度という極めて理不尽な保証制度に翻弄される人たちの物語を描いた「共同正犯」読了。 鳴川仁は、かつては製鎖工場に勤めていたが、今は居酒屋を営む人のいい青年。何か面倒なことを頼まれると断れないような、誰からも好かれ…

映画「サントメール ある被告」

10月24日(火)下高井戸シネマにてフランス映画「サントメール ある被告」鑑賞。 本作の大部分は法廷で、その法廷での質問や尋問、それに対する回答によって、ドラマの深層が次第に明らかになるという趣向。 アフリカ系女性作家のラマは、同じアフリカ・セネ…

大門剛明「罪火」

大門剛明氏の作品第二弾は「罪火」。罪火という言葉自体は造語のようで、ネットで辞書を引いても大門氏のこの作品や、これを原作にしたドラマの説明しか出てこない。この「罪火」が最終的にはキーワードとしてこの作品のどんでん返し的なストーリーを解くカ…