永井紗耶子「女人入眼」

永井さんの鎌倉時代初期の京と鎌倉を舞台にした歴史小説「女人入眼」読了。主人公は京都の六上殿に仕える周子。彼女は京の朝廷内で勢力を二分する一人である丹後局の部下で、丹後局から鎌倉幕府と朝廷の絆を強めるための姻戚関係を作るため、頼朝と政子の娘である大姫の入内を交渉すべく、鎌倉に派遣される。大姫への目通りを頼むがなかなか実現せず、やっと会えたが、大姫はそっけなく退出してしまう。鬱の病にかかっているとのことで、周子は大姫の真意を探るべく、関係者にあって大姫の過去から現在までの心境を調べることになる。そして周子の結論は、大姫は入内をしたくない、政子の支配から解き放たれたい、出家したいとの真相に行きつき、政子に向かってその旨を報告。しかし、政子は周子の言うことなど聞くはずもなく、周子を邪魔者と察して郎党に襲わせる。大姫は、自分が入内を拒否することで、周子はじめ関係者に迷惑をかけることに耐え切れず、政子の隙をついて海で自死する道を選ぶというのが、永井さんの考えたストーリー。

実際はどうであったかは不明だが、ネットで見た限りでは、大姫に入内の話があったのは事実で、入内が実現せず鎌倉で亡くなったのも事実。「女人入眼」のタイトルは、この当時の朝廷における丹後局鎌倉幕府の政子に代表されるように、天皇や将軍よりも、妻や女官の方がより力を持ち、政を支配していたということ。本作では、天皇の後鳥羽帝や将軍の頼朝よりも、がぜん女性に力があるように作品が組み立てられている。頼朝亡き後の北条政子院政を敷いたことは有名ですが、朝廷においても女性の力が大きかったのかもしれません。

周子はおそらく架空の人物だと思われますが、彼女は結局鎌倉で木曽義仲の子息である海野幸氏と結婚。承久の乱を経て20数年後には鎌倉幕府ががぜん大きな力を持ち、朝廷の力がそがれていく。それが貴族社会から武士による封建社会の始まりとなる、いわばパラダイムシフトが起こっていくのでした。

今日はこの辺で。