映画「福田村事件」

数々の社会派ノンフィクション映画を手掛けてきた森達也監督が、初めて劇映画を渾身の力をかけてつくったのが本作「福田村事件」。ちょうど100年前に発生した関東大震災時の禍々しい事件である福田村における日本人行商人9名の殺人事件を、今日への強い警鐘を鳴らすことを意識して作られた作品で、胸が締めつかれるような思いを持つ。

関東大震災時には、戒厳令(緊急事態宣言)が敷かれ、政府が流言飛語を助長するような通達を出したことから、朝鮮人を始め6,000千人の外国人や共産主義者が殺害されたといわれる。それが、福田村、現在の千葉県野田市のような農村でも緊張感が生まれ、朝鮮人は皆殺しにしてもよいというような風潮が警察・消防・退役軍人の間で共有されてくる。そこに現れたのが、香川県から来た被差別部落の薬売りの行商人15名。殺気だった自警団の面々が、彼らを理由なく殺害する様子が、終盤の40分ぐらいで緊迫感をもって描かれる。いくら日本人だと言っても聞く耳を持たない事件団の連中が、集団心理を醸成し、朝鮮人なら殺してもよいという雰囲気が作り出されるなか、行商人たちの恐怖は最高潮に達する。そこで行商人のリーダーが「朝鮮人なら殺してもいいのか」と訴える姿は象徴的な場面。とんでもない事件を起こした加害者たちは、しかし昭和天皇即位の恩赦で全員が釈放されたことがエンドロールで語られる。

前半はやや冗長な部分はあるが、それらが伏線となって終盤の緊張感をより高める効果があったのではないか。

東日本大震災の際は、幸運にも住民の冷静な対応が美談ともなり、二の舞は起こらなかったが、コロナ禍時には自警団的な行為も見られた。そして今日の「新しい戦前」と言われるきな臭い時代が到来。外交無策の中、戦争を煽る風潮が垣間見える。本作は、そんな今日の風潮への警鐘でもある。

今日はこの辺で。