真保裕一「正義をふりかざす君へ」

真保裕一作品を久しぶりに読む。「正義をふりかざす君へ」は、雑誌「続楽」に2012年から2013年にかけて連載されたもので、2013年に単行本化、丁度10年前の作品。真保氏は朝日新聞にも月一ぐらいのコーナーを持っていたと記憶していますが、社会的関心も強い方。そんな真保氏が本作でうったえるのは「正義とは何か」という問題。結論的には、絶対的な正義はありえないということだが、それをある事件を追う私=不破勝彦を通して語っていく。舞台となるのは長野県棚尾市という架空の町で、そのほかの地名は実名で表記される。位置的には長野市の近くで新幹線が停車するので、おそらくは上田市辺りが舞台か。不破は棚尾市出身で、高校時代から尊敬する大瀧という男を追いかけて地元の有力新聞社の記者を経験。その後棚尾の財界を仕切る神永滋の娘と結婚して、ホテル経営に携わり、神永に経営のノウハウを伝授される。しかしそのホテルで食中毒事件が発生して、いくつかの不祥事が重なり、不破は妻との仲も悪くなり離婚、東京に逃げるようにして棚尾を後にする。その後音信不通の状態だったが、かつての妻、美里から不審な写真が何者かから届き、送付者を調べてほしいと連絡があり、8年ぶりに棚尾に戻る。棚尾は市長選の真っ盛りで、美里が市長選候補の朝比奈と不倫関係にあり、送られた写真は美里と朝比奈のツーショット写真。選挙運動とも絡んだ何者かのネガティブな作戦ではないかと思われたが、調べを進めるうちに、不破は何者かに襲われる。不破が戻って何事かを調べていることに危機感を抱いた何者かがいるのではないか?選挙戦の妨害行為ではないのではないか?などと疑問を深めていく不破。不破は食中毒事件後に妻と離婚し、東京に逃げるような形で去っていったという後ろめたさを感じながら、誰かが自分を恐れて仕掛けていることを次第に感じていく。そしてその正体が、自分が尊敬していた、今は新聞社の社長になり、自分の息のかかった市長を操って棚尾市やメディアを支配している大瀧であることを確信し、彼がかつて調査報道と称して薄汚い行為をしていたことを直接本人に問い詰める。大瀧は何も答えず去っていくが、当日交通事故で重体とのニュースが流れる。大瀧は自殺を図ったのだ。

そして最後は更なるどんでん返しが待っている。不破がなぜ美里に呼び出されたのか。美里は父親の復讐のために大瀧を追い詰め、市長選に自分の弟に据えることだった。これを見ぬいた不破だが、まんまと美里の魂胆にはまった自分を、自戒を込めて悔やみ、したたかな美里に別れを告げる。

作品名の「正義をふりかざす君へ」は、主な登場人物がいずれも自分には正義があることを自覚して行動するが、それは決して本当の正義ではない、正義には表も裏もあることを自覚せよという真保氏の訴えがあるのではないかと思った次第。

今日はこの辺で。