2023-01-01から1年間の記事一覧

芦沢央「火のないところに煙は」

芦沢氏は1984年生まれというので今年39歳の、まだこれからが楽しみな作家。「火のないところに煙は」は、2016年から18年にかけて小説新潮に連載された連載短編。但し、第一話から五話までは小説新潮に連載されたが、最後の終話は書下ろし。「私」が新潮社か…

白井智之「名探偵のいけにえ」

白井智之氏の本格ミステリーで、昨年2022年9月に発行されたばかりの「名探偵のいけにえ」読了。本格ミステリーとは、いわゆる謎解きに重点を置き、そこには名探偵が必ず登場するというような定義のようで、その定義によれば、本作は本格ミステリーの部類に入…

夕木春央「方舟」

毎年末恒例の週刊文春ベストミステリー2022年度のベスト1に輝いた夕木春央氏の本格推理小説「方舟」読了。いわゆる密室もので、犯人がそこにいた7人に絞られるものの、読者はなかなか真犯人が特定できない展開で、勿論登場人物で生き残った7人も、翔太郎さん…

道尾秀介「向日葵の咲かない夏」

道尾秀介お得意の、読者を騙すテクニックを駆使したミステリー「向日葵の咲かない夏」読了。 登場人物は少なく、主人公の9歳ミチオ少年と同級生で、クラスでいじめにあって不登校気味のS君、担任の岩村先生、古瀬老人、ミチオの妹のミカ、あとはミチオの両…

中山七里「越境刑事」

多作の中山先生が、中国の新疆ウイグルでの民族浄化、人権侵害にまで“越境”して描いた「越境刑事」読了。架空の国や民族ではなく、明確に実名でこれだけはっきり描いているのは驚きで、習近平が読んだら頭に血が上るほど怒り狂うのではないか、日中の外交に…

初夏の東北温泉旅行

6月28日(水)~7月1日(土)、3泊4日の東北への夫婦温泉旅行挙行。例によって大人の休日倶楽部パスを利用した交通費お得旅行で、なおかつ最近はじゃらん専用で予約していて、ジャパンクーポンと全国旅行支援、そしてじゃらんポイントを最大限に利用するため…

辻村深月「嚙み合わない会話と、ある過去について」

辻村さんが、過去の行為について、今その行為の罪深さを反省したり、あるいは強く追及される姿を描く4つの短編集「嚙み合わない会話と、ある過去について」読了。「噛み合わない」とは、過去の行為をした方とされた方の思いが、違っていることを指すのでしょ…

映画「ソフト/クワイエット」

一週間ほど前になりますが、6月16日に武蔵野館にてアメリカ映画「ソフト/クワイエット」鑑賞。この映画は、最初から最後までカットがないワンカット映画で、時間の切れ目がない映画。どうやって撮ったのか、あるいは編集したのか不明ですが、その作風には引…

凪良ゆう「私の美しい庭」

凪良さんの作品第二弾は「私の美しい庭」。この作品はほっと心温まるお話で心地よい余韻が残ります。 百音さんは10歳の小学生で、統理さんと暮らす。二人の関係は複雑で、統理さんと離婚した女性が再婚してできたのが百音さん。その両親が交通事故で亡くなっ…

凪良ゆう「流浪の月」

今最も若者に読まれている作家は誰か?と聞かれれば、その名前が必ず出てくるであろう凪良ゆうさん。ボーイズラブ作品が多いとのことですが、本作「流浪の月」は本屋大賞を獲得した作品で、直近の本屋大賞でも「汝、星のごとき」で獲得している、書店員さん…

辻村深月「かがみの孤城」

学校における「いじめ」は、すっかり小説の世界の定番テーマとなり、様々な作家が名作を発表している。私が一番感動した過去の作品は、重松清さんの「きみの友だち」でありましたが、他にもいくつかの作品を読んできました。本作「かがみの孤城」は、数年前…

宮下奈都「羊と鋼の森」

2016年の本屋大賞を受賞した宮下奈都さんの「羊と鋼の森」読了。宮下さんの作品を読むのも初めてですが、とにかく最近は女性作家の活躍が目覚ましく、本屋大賞に限って言えば、20回中13回が女性作家の作品。小説の世界ではジェンダーギャップは完全になくな…

道尾秀介「光」

道尾秀介が小学生の冒険の思い出を描いた「光」読了。全7章からなる連作構成。登場人物は小学4年生の利一、慎司、清孝、宏樹、6年生で慎司の姉の悦子、途中から登場する3年生の劉生。それに清孝の祖母のキュウリー夫人と叔父のガニーさん。私=利一が語りて…

映画「波紋」

「淵に立つ」で魅力的な主役をはり、「よこがお」でも怪しい魅力を放った筒井真理子さんが、三度の主役となった映画「波紋」を武蔵野館で鑑賞。現在62歳とは思えない若さと美しさを放つ彼女ですが、今回の役柄は悲喜劇の中で表情を変えていく演技がなかなか…

安生正「生存者ゼロ」

安生正作品は初めて。作家名も知らなかったのですが、「このミスがすごい」大賞作品ということで、図書館で借りてきた次第。 2013年刊行作品で、勿論新型コロナのパンデミックよりかなり前ではありますが、いわゆるパンデミックもののスケールの大きな作品で…

映画「小さき麦の花」

2023年5月29日、下高井戸シネマにて中国映画「小さき麦の花」鑑賞。一言で言えば感動を誘う素晴らしい映画です。 中国西北部の貧しい農村の、更に最下層の夫婦の物語。夫の年齢は語られないが、相当に老けた容貌ながら、それは最下層の貧困によるものか。妻…

法坂一広「最終陳述」

法坂氏は現役の弁護士で、本作「最終陳述」の舞台となっている福岡を拠点としている。正に本拠地の福岡地裁を舞台に、巨額詐欺商法を行っていた会社の社長と秘書二人を殺害したとして石野正紀被告を裁く裁判員裁判の最終陳述の場面で、詐欺会社の社員で船戸…

道尾秀介「光媒の花」

道尾さん得意の連作短編「光媒の花」文庫版を北海道旅行中に読了。小説すばるに連載されたものですが、第一章が2007年4月号、半年後の07年10月、11か月後の08年9月、同年10月、09年1月、同年3月まで連載。第一章から第三章までの間隔が随分空いており、道尾…

北海道旅行記

2年前から飛行機で国内遠隔地に行く旅行を始めました。2年前は出雲・松江の山陰旅行、1年前は長崎旅行。今年は北海道旅行。 約2年ぶりの北海道旅行に、2023年5月17日~19日、2泊3日の日程で、妻と一緒に行ってきました。前回は2021年9月に大人の休日倶楽部パ…

瀬尾まいこ「おしまいデート」

瀬尾まいこさんの短編5編が収録されている「おしまいデート」読了。表題作を始め5編いずれも、男女カップルとは問わない「デート」にまつわるお話。こういう短編も面白い構成ではあります。 「おしまいデート」:すい子さんは両親が離婚してお母さんと暮らす…

瀬尾まいこ「温室デイズ」

瀬尾まいこ作品10作目は、とある中学校の学校崩壊、学級崩壊といじめを描いた作品。いじめは小説の題材としては大変多く、重松清先生などは得意中の得意ではないかと思うのですが、瀬尾さんの本作「温室デイズ」も、信じられないような学校崩壊・学級崩壊が…

小川哲「君のクイズ」

かなり前になりますが、朝日新聞の書評欄で評者が絶賛していた記憶があり、図書館に予約していたのがやっと届いて、小川哲「君のクイズ」読了。 最近はほとんどテレビのクイズ番組は見ないのですが、東大や早慶を中心に大学対抗とか芸能人代表とかの対抗戦な…

瀬尾まいこ「戸村飯店100連発」

瀬尾まいこ作品9作目は「戸村飯店100連発」 大阪の下町で中華料理店「戸村飯店」を営む両親の二人の年子の息子、兄ヘイスケと弟ケイスケ兄弟を主人公とした青春物語を六つの章立てで交互に描く構成。 兄のヘイスケは、女子生徒にもてる二枚目ながら、コミュ…

映画「R R R」

下高井戸シネマにてインド映画の大ヒット作「R R R」鑑賞。とにかくインドのアクション映画は理屈抜きで楽しく面白い。物語は日本に時代劇にある勧善懲悪もので、難しいところはなく、アクションは豪快。連休期間中とあってか、客席は満員御礼。皆さんこの映…

瀬尾まいこ「君が夏を走らせる」

瀬尾さんの作品8作目は「君が夏を走らせる」。偶然ですが、中学生の駅伝を扱った「あと少し、もう少し」に出てきた、不良少年ながら走ることが好きで、駅伝を走り切って県大会出場を果たした一員である大田君が主人公で、何か続編を読むような感覚。大田君は…

瀬尾まいこ「あと少し、もう少し」

今週刊文春で人気作家、池井戸潤氏が「俺たちの箱根駅伝」という小説を連載中ですが、単行本化が楽しみです。そんな駅伝を扱った瀬尾まいこさん作品「あと少し、もう少し」読了。市野中学校は地方の小さな公立中学校。そんな市野中学校が駅伝の県大会出場を…

映画「トップガン・マーベリック」

昨年11月に飯田橋の「ギンレイホール」が閉館してから、映画を見る本数が減ったのと、飯田橋から新宿までの帰り道をウォーキングする楽しみもなくなって寂しい限り。早く移転先を見つけて開館してほしいものです。 それでも映画を見ていないわけではなく、直…

瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」

瀬尾まいこさんの代表作で、2018年の本屋大賞を受賞した「そして、バトンは渡された」読了。代表作とあって期待を裏切らない作品。 主人公の優子さんは、幼少時にお母さんが亡くなり、全く記憶がない。父親の秀平さんに育てられ、時々おじいちゃん、おばあち…

瀬尾まいこ「優しい音楽」

瀬尾まいこさんの作品5作目「優しい音楽」読了。本作は3つの味のある作品が所収された短編集。 表題作「優しい音楽」は、ある朝の通勤中に千波さんという女性から見つめられたタケルさんが、最初は彼女を怪しんでいたものの、毎日接するうちに好感を抱くよう…

瀬尾まいこ「春、戻る」

瀬尾まいこさんの作品4作目「春、戻る」読了。200ページほどで会話が多いため字数が少なく、かつ人情あふれる人たちの触れ合いが中心の人間ドラマで、大変読みやすい作品。 主人公の望月さくらさんは、結婚を控える36歳の女性。彼女は大学卒業してすぐ岡山県…