夕木春央「方舟」

毎年末恒例の週刊文春ベストミステリー2022年度のベスト1に輝いた夕木春央氏の本格推理小説「方舟」読了。いわゆる密室もので、犯人がそこにいた7人に絞られるものの、読者はなかなか真犯人が特定できない展開で、勿論登場人物で生き残った7人も、翔太郎さんと真犯人以外は最後まで犯人を特定できない筋書き。わずかなヒントで犯人を突き止める翔太郎さんの、最後は独壇場となる。しかし、最後の最後には大きなどんでん返しが待っているのでありますが。

大学時代のサークル仲間6人、裕哉、隆平、麻衣(隆平の妻)、花、さやか、柊一(僕)と僕の従兄の翔太郎の7人が、裕哉の別荘に来て、裕哉の提案で山の中に地下建築があるので行ってみようということになり、7人が方舟のような地下建築物にたどり着く。建物は地下3階建てで、かつては宗教団体や得体のしれない団代が入っていたような不気味な雰囲気の建物。そこに道に迷ったと称する夫婦(幸太郎、弘子)と中学生の子供(隼斗)の3人が加わる。建物への入口は1か所だけだが、既に暗くなったので一晩をここで過ごそうとなるが、そんなときに地震が発生。出入口が大きな岩で塞がれてしまう。その地震の直後に裕哉の行方が分からなくなり、建物内を捜索すると絞殺死体で見つかる。

更に地下3階は水で埋まっており、その水が地下2階へ迫っている。脱出するためにはその巨岩を備え付きのクレーンのような機械を使えば可能なのだが、その為には1人だけは建物の残らなければならず、その1人は死を覚悟せねばならない状況。そうした緊迫した状況の中、第二、第三の殺人が発生し、制限時間ギリギリのところで翔太郎が犯人を特定し、その特定された人も3件の殺人を認め、自分が残ることを承知する。この三件の殺人事件から細かな証拠を積み重ねて犯人を特定する翔太郎はただものではないのだが、しかし、犯人はとんでもない仕掛けをしていたのだった。

ベスト1ミステリーに選ばれただけあって、ち密な構成になっており、これぞ本格推理と思わせるが、最後のどんでん返しには、夕木氏の知恵の結晶が詰め込まれており、それまで出番が少なかった犯人が、翔太郎さんを凌駕したのでありました。

今日はこの辺で。