瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」

瀬尾まいこさんの代表作で、2018年の本屋大賞を受賞した「そして、バトンは渡された」読了。代表作とあって期待を裏切らない作品。

主人公の優子さんは、幼少時にお母さんが亡くなり、全く記憶がない。父親の秀平さんに育てられ、時々おじいちゃん、おばあちゃんとも過ごしてきたが、小学生の時に秀平さんが梨花さんという女性と再婚。梨花さんがお母さんになり、3人で幸せな家庭となるはずが、小学校5年生の時、秀平さんがブラジルに転勤となり、両親は優子さんにブラジルに行くか、日本に残って梨花さんと暮らすかの選択を迫られる。実の父親についていくか、あるいは転勤期間だけ梨花さんと生活するのが普通であるが、ここで梨花さんの本領が発揮される。梨花さんはブラジルには行きたくないし、優子さんもと別れたくないと主張。優子さんは悩んだ末、友達と別れたくないことを優先し、日本に残り梨花さんと暮らすことに。そして梨花さんと秀平さんは離婚することに。優子さんの姓は水戸優子から田中優子になる。梨花さんは秀平さんから養育費をもらうが、結構派手好きなことから、それでは生活できず、生保レディーになって働く。この時期は優子さんにとっても金銭的に苦しい時だが、梨花さんは天真爛漫で、優子さんを大切にしてくれる。そんな苦しい生活の中、優子さんは「ピアノが欲しい」とつぶやいてしまう。冗談のつもりでもあったが、梨花さんはピアノを習えるようにしてくれると宣言。その約束通り、小学校卒業の記念として、大きな家に引っ越すことに。梨花さんはお金持ちのかなり年上の男性、泉が原さんと結婚したという。ここで優子さんは泉が原優子となる。その家には立派なピアノと専用の部屋があったのだ。そこで優子さんは思う存分ピアノが弾けることになる。泉が原さんはとってもいい人なのだが、その家は二人にとっては何か堅苦しい雰囲気があり、特に梨花さんは耐えられなくなり家を出てしまう。その際梨花さんは優子さんも一緒に行こうと盛んに誘うのだが、優子さんはピアノが練習できる安定した生活を選択。中学生時代はその家で大切にしてもらい過ごす。

優子さんが中学を卒業する時期に、梨花さんは泉が原家を訪れ、結婚したので優子を引き取りたいと言う。優子はここでも悩むが、話はもうできていることを察し、梨花さんの新しい旦那さんの森宮さんのマンションに引っ越す。ここで優子さんは森宮優子となる。梨花さんは、それでも森宮さんのうちを出て行ってしまい、高校生以後は森宮さんとの生活が始まる。

こうして優子さんにはお母さんが2人、お父さんが3人という稀なる人生が積み重なる。優子さんにとって幸運は、亡くなった実のお母さんを含めて、みんないい人に出会ったこと。

小説の展開は、最も新しい森宮さんとの生活場面を中心にして、途中何度も過去何人も親が代わる事情を挿入していく。そこには優子さんの学校生活や、恋人との触れ合いなど、様々なお話がある。これが第一章。

第二章では、短大を卒業した梨花さんが小さな食堂に就職し、そこで高校時代の同級生に再会。彼との結婚を決意し、親の承諾を得る話となる。森宮さんは彼のことを風来坊として結婚に反対する。そこで優子さんは他の親に結婚の承諾を得てから森宮さんを説得することに。泉が原さんは大歓迎し、歓待を受ける。泉が原さんに梨花さんの居場所を聞き、梨花さんが入院する病院を尋ねると、梨花さんは再び泉が原さんと結婚したことを知る。梨花さんは随分とやつれた表情で迎えてくれ、過去の優子さんを引き取った事情などを優子さんに話す。梨花さんは自分が当時病気にかかっていて、何とか優子さんの新しい父親を探そうとしてかつて同級生だった森宮さんを結婚相手に選び、森宮さんに優子さんを託す形で出て行ったことを知る。更に、実の父親である秀平さんからの百通以上の手紙があったこと、梨花さんは優子さんが自分から離れてしまうことを恐れ、それを優子さんに見せなかったことを告白する。

最後の優子さんの結婚式には秀平さんも出席して、感極まって涙を誘う場面。私も読んでいて涙があふれてきてしまいました。

梨花さんのような変わった女性がいるのかどうかわかりませんが、自分のお腹を痛めた子供でなくても、これだけ愛情を注いでくれる人に巡り合ったことも、優子さんにとっては幸運だったのではないか。その意味で、梨花さんと優子さんと森宮さんの3人の主役の物語でした。

今日はこの辺で。