芦沢央「火のないところに煙は」

芦沢氏は1984年生まれというので今年39歳の、まだこれからが楽しみな作家。「火のないところに煙は」は、2016年から18年にかけて小説新潮に連載された連載短編。但し、第一話から五話までは小説新潮に連載されたが、最後の終話は書下ろし。「私」が新潮社から怪異現象に関わる小説を書かないかとの誘いがあり、第一話を書いたのが始まりだが、第五話まで構想があったわけではなく、なんとなく連載が続いたと、終話で私が言っているのが本当なのかは否かは不明ながら、なんとなく繋がっているのは確か。

「染み」:私が実際に経験した話。大学時代の女友達の女友達が、結婚を前提に付き合っている彼氏と、結婚の相性について神楽坂の女占い師にみてもらったところ、別れなさいとの見立て。それを契機にお互いの中が悪くなり、彼氏の方がストーカー的振る舞いが続き、別れるなら死ぬと言って、本当に車を激突して死んでしまう。彼女は広告会社に勤めているが、彼女の作った広告には、その後、あやまれという字の「染み」が付くようになる、という話。

「お祓いを頼む女」:君子さんは雑誌のフリーライターで、彼女の記事を読んだ平田さんという女性から、何かに祟られ不幸が続いているから、お祓いをしている人を紹介してほしいと、強引に訪ねてくる。君子さんが私に相談があり、私の友人である榊さんに一連の彼女の話をすると、その女性の話は祟りではなく、誤解しているのではとの結論に。しかし、平田さんが亡くなったことを聞いて、本当は怪異現象があったのではないかと感じる私。

「妄言」:若夫婦が郊外の一軒家に転居してきた隣人は、何かと面倒見がよい奥さん。ところが、若夫婦の旦那が浮気しているところを目撃したと妻に告げ口して夫婦仲が悪くなる。その後も浮気の目撃を告げ口したことから旦那は猛抗議。ある日家に帰ると隣の奥さんが家に入り込んで妻に告げ口していたことから口論になり、突き飛ばして殺してしまう。この話を聞いて、その奥さんは嘘をついていたのではなく、未来を見ていたのではないかと私は思うのだった。

「助けてって言ったのに」:1年に義母と暮らすことになった若夫婦。そこで奥さんは変な夢を見るようになる。その夢は炎に包まれて苦しむもの。夫に話すと義母も同じ夢で苦しんだことを知る。家族で相談の結果、家に悪い例があるとして売ることに。幸い親戚筋の人に売る目途がついたが、その家族の写真を撮ったところ、変なもやがかかっていることから、契約は破棄。そのすぐ後に、若奥さんが死亡してしまう。この死亡は矢張り霊のせいなのか。

「誰かの怪異」:大学生が大学近くの格安物件の部屋に入居。その部屋では身の回りの設備などで不良が相次いだり、勝手にテレビ画面が変わったり、鏡に少女が映ったりと、不思議な現象が相次ぐ。すると隣の女性も同じ経験をしていることがわかる。例に関心がある大学生にみてもらうと、やはり何かを感じ取り、アドバイスする。女性は過去に娘さんを亡くしており、その例が住み着いていたのでは。

「禁忌」:単行本化に際して著者が書下ろした章。前記五つの怪異現象は、神楽坂の占い師に全部繋がっているのではないかという「私」の推論が述べられる。

今日はこの辺で。