瀬尾まいこ「春、戻る」

瀬尾まいこさんの作品4作目「春、戻る」読了。200ページほどで会話が多いため字数が少なく、かつ人情あふれる人たちの触れ合いが中心の人間ドラマで、大変読みやすい作品。

主人公の望月さくらさんは、結婚を控える36歳の女性。彼女は大学卒業してすぐ岡山県の田舎の小学校に赴任した経験があるが、挫折して1年で辞めて実家に帰ってきて、10年間は事務仕事で勤務し、和菓子屋の息子さんともうすぐ結婚する身。そんなさくらさんのもとに、桜の兄さんだと名乗る24歳の青年が現れて、さくらさんは最初戸惑い拒絶反応を起こすが、次第に彼と打ち解けていく。彼がさくらさんを本当のきょうだいのように心配してくれるのがわかってくる。さくらさんも、彼とどこかで会ったような気がするのだが、その記憶にはなぜか扉が閉まってしまう。婚約者の山田さんは、和菓子屋の跡取りとなって毎日和菓子作りに励む38歳の真面目な青年。だが、お互いに本当の愛情があって結婚するのかどうかは最初の時点では疑心暗鬼がある。そんなさくらさんと山田さんの間に入っておにいさんは、二人のあ愛情を醸し出すキューピットのような役割を果たすことに。

実はこの青年は、さくらさんが岡山の小学校の教師時代、教室が学校崩壊のような状態になったときに、親身にサポートしてくれた小森校長先生の息子さんで、小森先生が都会に出た息子さんに、さくらさんが何事もなく暮らしているかを見守ってくれるように頼んだことが最後に明かされる。さくらさんの記憶の扉が開き、過去は過去として今に引きずることなく、そして山田さんとの結婚も愛情深く結ばれることができそうな予感をもって完結。

中盤ぐらいで、青年がさくらさんの教師時代に関係があることが読者にはわかると思いますが、そんなことは別にしてさわやかな作品でした。

ついでに言うならば、瀬尾さんの作品では、「傑作はまだ」のシチュエーションに非常に似た作品。突然現れる息子か兄の違いはありますが、さわやかな青年が重要なキューピットという展開も非常に似ていました。

今日はこの辺で。