道尾秀介「光媒の花」

道尾さん得意の連作短編「光媒の花」文庫版を北海道旅行中に読了。小説すばるに連載されたものですが、第一章が2007年4月号、半年後の07年10月、11か月後の08年9月、同年10月、09年1月、同年3月まで連載。第一章から第三章までの間隔が随分空いており、道尾さんがどういう経緯で書き始めたのかが不明ですが、それでも、各章に何らかの繋がりを持たせる技が彼の才能か。山本周五郎賞受賞作。

第一章「隠れ鬼」は、鬼とあるように恐ろしい話。遠沢印章店の遠沢正文は40代の店主。彼は父親が亡くなったために店を継ぐことになり、現在に至るが、若いころ父親の車で家族で別荘に行き過ごすことがあったが、別荘近くの笹が生える場所で美しい女性に逢い、関係を持つ。こうして毎年彼女に会っていたが、ある年に彼女がその場所に来ないことがあり、彼女のお店まで行き、そこで父親と彼女が関係を持っていたことを知ってしまう。彼女が殺され、父親が自殺するという事件が発生。女性を殺したのが実は正文であり、父親は事情を知って罪をかぶって自殺したのだった。

第二章「虫送り」もまた殺人事件の顛末。幼い兄妹は両親が忙しく働いていたため、二人でいることが多く、夜河原に行って虫を捕まえることがあった。ある晩河原に住むホームレスの男に妹がいたずらされたことから、兄妹は大きな石を橋の上からホームレス男の小屋にめがけて落下させ、翌日その男が死んだことを知る。兄妹は対岸で誰かが見ていたのではないかと心配して探ろうとしていると、同じように河原に住む男から話しかけられ、兄妹が石を落としていたところを見たと示唆される。死んだ男は前にも女の子にいたずらして、それを自慢話していたことがあり、兄妹が落とした石で死んだのではなく、男がその石で殴り殺したのであった。

第三章「冬の蝶」は、ホームレス男を殺した男の若いころの話。彼は虫の研究を志す生徒で、中学2年の同級生のサチという女性徒と仲が良くなる。サチは母子家庭で貧しく、いつも一人でいる。彼はサチに時計を送ろうと家を訪ねた時、サチが男に犯され、母親が酒を飲みながらそれを見つめている場面を目撃してしまう。彼はサチに、男を自分が殺すと訴える。それに対してサチは、生活の面倒は誰が見てくれるのと返答。その後例の男は殺される。サチが男を殺したことを彼は知るのだった。

第四章「春の蝶」は、前章のサチが大人になって出会った由希という少女との交流。由希の母親は夫の浮気を理由に離婚。それが分かったのは夫が相手と電話していたのを由希が聞いていたからだった。そんな親の不仲が原因で由希は耳が聞こえなくなる。由希は母親が働いているため、祖父の牧川の家で過ごすことが多い。そんな牧川が1300万円を盗まれたと言って警察に届けるが犯人は見つからない。実は由希は犯人が誰かを知っていた。盗まれたときに杖の音を聞いていたのだ。杖は牧川がいつも持っているもの。祖父の牧川の自作自演だった。由希は本当は既に耳が聞こえるようになっていたのだ。牧川は娘が金を無心していたことから、これ以上金はないことを知らしめたかったのだ。ちなみに、由希はユキで、幸もユキ。でも幸はサチとも読めるのだった。サチは幸せに縁遠い幸。

第五章「風媒花」は、第一章で兄妹が石を落下させた場面があったが、その石は谷内石材店の若い運転手が荷台から落としていった石。その運転手の亮君と姉の姉弟の話。(一章と結び付けるのはちょっと無理な感はあり?)姉弟は母子家庭で育ちとても仲が良く、逆に亮と母親は不仲の関係。姉は小学校の教師をしているがストレスで病気になり入院。どんどんやせ細っていく。病気は単なるポリープではなく、もっと深刻なのではないかと思い込む。母親とはこの間もあまり会話がないが、姉からの言葉で母親に対する気持ちが自分の我がままだったのだと気づく。母親は母一人で自分たちを立派に育ててくれたことを認識するに至る。そして姉の病気も回復するのでした。

第六章「遠い光」は第五章の姉が無事に病気から回復して、小学校4年の担任に復帰してからの話。クラスには朝代という、あまり人と交わらない子がおり、その子とのコミュニケーションがあまりできない私。その朝代は母子家庭で、ある時民家の犬猫に向かって石を投げつける事件を起こす。猫は驚いてどこかに逃げてしまったまま。担任の私は朝代を連れて謝罪に行くが、朝代は謝ろうとせず、民家の主は激高して、教育がなっていないとまくしたてる。朝代はどうして投げつけたかの理由も話さない。朝代が一人で猫を探しに行ったことを知って、私も一緒に探すうちに、朝代は話し始める。今一緒に暮らす母親はじつは伯母さんで、今度結婚するが、その結婚は私を私立高校に行かせるため、そして新しい子供ができれば私は忘れられる。そんな不安から仲良くしている犬猫を見て癪に触ってしまったこと。そんな諸々の話をしているうちに、二人は光を見出すのでありました。

登場人物の関係性はそれほど深くない作品ではありました。

今日はこの辺で。