白井智之「名探偵のいけにえ」

白井智之氏の本格ミステリーで、昨年2022年9月に発行されたばかりの「名探偵のいけにえ」読了。本格ミステリーとは、いわゆる謎解きに重点を置き、そこには名探偵が必ず登場するというような定義のようで、その定義によれば、本作は本格ミステリーの部類に入るものでしょう。私はどちらかというと、社会派ミステリーを好む方なのですが、たまにはこうした作品も読まないと頭の体操にはならないかも。

本作には名探偵として大塒崇が登場するが、実際の名探偵は有森りり子という学生アルバイト。そして謎解きは、りり子が向かった南米ガイアナ新興宗教の村、ジョーデンタウンで発生する殺人事件の犯行。ちなみに、本作は実話をもとにしており、実際に1978年11月18日、ガイアナのジョーンズタウンという新興カルト教団が造った村で914人が集団自殺した事件を題材にしている。私が大学生の頃のことで、そういえばそんな事件があったなあぐらいの記憶しかないのですが、1000人近い人間が集団自殺を図るとは大変な事件。2001年の9.11同時多発テロ以前では、アメリカ史上最大の死者を出した事件。本作では、同じガイアナではありますが、ジョーデンタウンという名前にしてあり、極めて近い名前で登場。

このカルト教団の正体を調査するためにひそかに送り込まれた調査団にりり子さんがおり、予定期日を過ぎても戻らないため、大塒探偵がジャーナリストの友人と二人で現地に赴き、そこで発生する殺人事件の謎解きを行うというストーリー。

実際の事件は、教祖のジム・ジョーンズがアメリカを逃れてガイアナに移住し、信者たちもそれに従い、1000人近い町が出来上がり、共産主義的な集団生活を行っていたが、カルト的要素が強いとしてアメリカの議員団が調査に赴き、彼らが教団に射殺され、それを追うように集団自殺したようであるが、本作ではりり子さんが最後に殺され、それをよしとしない大塒が大仕掛けをしていることが最後のばらされるという筋書きで、実は集団自殺ではなかったことにしている。そいて、本作の題名にある名探偵とは大塒ではなく、りり子さんのこと。

確かに本格推理と呼ぶべき要素はあるのですが、二つのパターンでの犯人あてをする大塒の説明は、真新しいのですが、無理があるようにも感じた次第。

それにしても、宗教とは恐ろしいもので、特に新興宗教と言われる集団は、社会の不条理を声高に訴えて信者を募り、信者の幸福の名のもとに支配する構図はオウム真理教統一教会に共通するもの。教祖の命令一つで犯罪を犯し、金を違法に集め、殺人や自殺までさせる力まであるのだから。

今日はこの辺で。