瀬尾まいこ「優しい音楽」

瀬尾まいこさんの作品5作目「優しい音楽」読了。本作は3つの味のある作品が所収された短編集。

表題作「優しい音楽」は、ある朝の通勤中に千波さんという女性から見つめられたタケルさんが、最初は彼女を怪しんでいたものの、毎日接するうちに好感を抱くようになり、やがて恋人として付き合うことに。タケル君は千波の親御さんに挨拶したいと言うが、なかなか承諾しない。やっと千波さんが家に招いてくれてタケル君が両親に挨拶するが、両親はじろじろとタケル君の顔を眺め、そして大歓迎してくれる。タケル君はふと額に入った家族写真を見ると、自分と似た人が映っているではないか。そして、それが千波さんの亡くなったお兄さんで、千波が最初にタケルに近づいたことをそこで理解する。タケル君は疑心暗鬼も生まれるが、今はお互いに愛し合っている中で千波との仲を大切にしようと決意。千波の自宅にあるピアノの上に置いてあったフルートを見て、音楽一家と理解し、フルートを速攻で練習し、4人で演奏しましょうと提案。それが優しい音楽となりました。

「タイムラグ」は一番気に入った作品。深雪さんは会社の上司である平太さんと不倫関係にある。その平太さんに、妻と旅行に行くので8歳の娘を1日預かってほしいと頼まれる。こんな理不尽な頼みごとを受けられるかと拒否するが、元々人のいい深雪さんは渋々預かることに。娘さんとぎこちない時を過ごすうちに、娘さんがおじいちゃんの家に行きたいと言い出す。娘が言うには、お母さんは耳が聞こえない人で、結婚する時もおじいちゃんに結婚を許してもらえず、お母さんはおじいちゃんの家に行ったことがないのだと。これを聞いて、深雪さんはおじいさんのところに行って、どうして耳が聞こえない人と結婚してはいけないのかと文句を言って、娘がこんなに立派に育っているのはお母さんがしっかりしているからだと抗議するのでした。

深雪さんは今後平太さんと不倫関係を続けるのか?ここまで話はありませんが、読者のご想像にお任せしますということでしょう。

「がらくた効果」。章太郎とはな子は1年前から同棲中。はな子は物好きで物を買ったり拾ったりする癖がある。そんなはな子さんが動くものを拾ってきたので怒らないでという。はな子さんが拾ってきたのはホームレスのおじさん。おじさんは大学教授だったが、リストラされ、家や財産は全部離婚した妻に奪われ行くところがなくて公園でホームレス状態。そんなおじさんと公園で知り合ったはな子さんが、冬の寒さが厳しいだろうと連れてきたとのこと。章太郎さんは呆れるが、おじさんの態度を見てまあいいかぐらいの気持ちで同居生活が始まる。おじさんは礼儀正しく、物知りでもあり、二人の生活にも次第に変化が生まれる。二人は「佐々木効果」かなあなどと話し合う。章太郎と佐々木さんは正月の箱根駅伝を見ながら、タスキがつながらなくても、自走者がスタートするところを見て、章太郎は何げなく、おじさんらしい仕事があるんじゃないかと話す。翌日おじさんはいなくなっていたが、おじさんも新たにスタートしたことを二人で話すのでした。

3篇とも本当に味わいのある作品でありました。

今日はこの辺で。