辻村深月「かがみの孤城」

学校における「いじめ」は、すっかり小説の世界の定番テーマとなり、様々な作家が名作を発表している。私が一番感動した過去の作品は、重松清さんの「きみの友だち」でありましたが、他にもいくつかの作品を読んできました。本作「かがみの孤城」は、数年前に本屋大賞をぶっちぎりの大差の得票で受賞した作品で、辻村さんの代表作でもあり、今回読みましたが、確かに本屋大賞になって当然というべき作品で感動しました。

本作の主人公は、中学一年生になった4月の一カ月で理不尽ないじめにあい、不登校になってしまった安西こころさん。そして準主役というべきか、こころさんの仲間となる6人の、やはり不登校の中学生たち。

こころさんは中学に入って突然、クラスの女王的な存在の真田美織とその取り巻きにいじめにあい、不登校になり、母親にもその理由を言わないため、家庭内でも居場所がなくなりつつあったが、ある日自分の部屋の鏡が光り、それに触れるとタイムスリップしたように立派な城の中で目覚める。そこには6人の先着がいて、更に狼のお面をかぶった少女が、城の掟をみんなに告げる。鍵を探して秘密の部屋に入った人は、何でも願いが叶うと。そして、鏡を通してこの城に滞在できるのは朝の9時から夕方5時まで。さらに来年3月までが期限等々。こうして昼間だけの7人の交流が始まり、次第に連帯感が生まれる。お互いの素性は自己紹介時も詳しくは話さないままにしていたが、みんな学校に行ってないこと、そして一人を除き同じ中学の生徒であることがわかる。マサムネというゲーム好きの少年の提案で、冬休み明けの1月10日に学校に集まることに。ところがこころを始めみんなが学校の保健室に行くが、誰も来ていない。いたたまれなくなってこころ達みんなは城に戻るが、みんなも学校に行ったという。そしてみんながいつの時代からきているかがわかり、大きな時間差があることが判明。(こうして書くと、単なるタイムトラベル作品のようになるが、ち密な計算が隠されている。)

3月も終わるある日、アキちゃんという中学3年の生徒が5時までに帰らなかったことから、城への行き来が閉ざされ、こころ一人だけが鍵探しの秘密を悟り、それぞれの不登校理由を覗き見ることになる。アキちゃんは、母親が再婚し、義父から性暴力を受けるような家庭の為、居場所がなく城にいるしかなかったこともわかる。

一番泣かされるのは、こころが一時通うことも考えていた「心の教室」の喜多嶋先生の存在。彼女はこころの気持ちに寄り添って、こころがなぜ不登校になったかも承知したうえで、無理に学校に来なくてもいいし、「心の教室」にも来ることはない。来たいときに来てとだけ言う。城のもう一つの不文律は、城を出たらお城での記憶はなくなるということ。だから喜多嶋先生と言う女性教師が誰なのかはこころもわからないが、実はアキちゃんが結婚した男性の姓が喜多嶋で、アキちゃんは喜多嶋晶子さんなのだ。こころよりも14歳年上の喜多嶋先生がアキちゃんなのだ。アキちゃんは鮫島さんというおばさんに出会い、大学院まで出て「心の教室」で不登校の児童生徒に向き合う仕事についていたのだ。二人に城の記憶はないが、こころと喜多嶋先生は再会し、他の5人とも再会する予感を感じさせる感動的なラストでした。

550ページの長編で、飛ばし読みもありましたが、いじめを扱った小説の代表作で、かつサスペンス的応訴もあり、辻村さんの代表作と言っても過言ではない作品と感じました。

今日はこの辺で。