中島京子さんが平成18年ごろに書いた作品「平成大家族」読了。70歳で歯医者さんを辞め現在72歳の家族の当主一家は、夫婦と引きこもりの息子、老母の4人暮らし。ところが長女の夫が事業がうまくいかず自己破産して親子3人が転がり込み、次女が離婚して転がり込み、あっという間に8人の大家族になる。そんな家族8人がそれぞれの話の主人公になる短篇11作が網羅された短編連作小説。
「トロッポ・タルディ」は、個性的な面々が父親の家の転がり込んでくる様子と諸事情が語られるプロローグ。
「酢こんぶプラン」は、次女の友恵さんの夫婦生活の破たんと浮気、その結果妊娠して産んで育てていくと決心して親の元に居候することになった経緯。
「公立中サバイバル」は、長女の逸子さん一家の成績優秀な息子の残念な話。父親が倒産する前は、小学校で有名私立中学を目指して頑張り無事入学して友達もできたのに、父さんという親の都合で市立を辞めて公立中に転向した息子。公立中学はやはり非行やいじめがはびこっており、いじめにあわない7原則で身を守ることに。そんな彼の行動から、無実の女性をかばうことができなかった彼の無念が胸に痛い。「アンファン・テリブル」は、長女逸子さんの心配事。公立中に転向した息子が学校に行かなくなり、やっぱり私立に通わせようかと悩んだり、妹の妊娠を心配したりと、何かと心配ごとばかり。
「時をかける老婆」は、92歳のおばあちゃんが主人公。タケおばあちゃんは、最近自分の娘も忘れがちで、認知症気味。タケさんは要介護認定を受けて、若い介護士の女性が週2回来て散歩などをしてくれています。でも、頭がはっきりするときは友恵さんのお腹のことも見抜いたりするほどです。大連から引き揚げてきた記憶もばっちりです。
「ネガティブ・インディケータ」は、当家の長男で、高校卒業以来10年以上もひきこもり状態の克郎の話。克郎は、よく目立つ二人の姉とは正反対の大人しい性格で、その存在感が希薄で、自己主張もほとんどしないで育っていくが、ついには引きこもりになる。ただし彼のひきこもりは、インターネットの株取引がその性格を変えていく。
「冬眠明け」は、タケおばあちゃんの面倒を見ている介護士の皆川さんのお話。彼女はこのお宅に通っていくうちに、引きこもりの息子、克郎の存在を知り、彼と会話を始める。普通では考えられないが、彼女は克郎さんに癒しを感じていくのでした。
「葡萄をかりに」は、倒産して現在職探し中の長女の夫、聡介さんの話。彼は毎日背広を着て家を出るものの、職探しらしき活動はしていない。何が自分に合っているのかを模索中。そんなとき、求人広告で農業の手伝いの募集を見て、土をいじることに興味を持つ。ITの知識を生かして、農業経営のノウハウを研究し、後継のいないブドウ園を経営しないかと持ちかけられる。
「カラスとサギ」は、当主の奥さん、春子さんの話。仲良しグループのお食事会で、同年齢の女性の苦労話を聞き、自分も今こんなに大変だと言うが、お仲間たちはそんなことは大したことじゃないような反応。自分は幸せなのか不幸なのか、悩んでしまいます。
「不存在の照明」は友恵さんが子供を産む話。彼女は子供を産み、一人で育てていくことを決心するのですが、離婚後300日以内に生まれた子は、前夫の子供と推定する旨の民法に引っかかる。その引っ掛かりを消すために沖縄まで前夫を訪ねる。
「吾輩は猫ではない」は当主龍太郎さんの話で締めくくり。大家族のまとめ編です。友恵さんが子供を産み、代わりにおばあちゃんが天寿を全うし、長女の逸子さん家族は、夫の聡介さんがブドウ園を経営することになり、近じか千葉に引っ越し。友恵さんも近くに住まいをかり、引きこもりの克郎は皆川さんと結婚して、新居に引っ越し。結局残るのは、龍太郎・春子夫妻、公立中に通うさとるくんの3人だけとなるようです。短い間ではありましたが、嵐が去ったような静かな時間が帰ってきそうです。
今日はこの辺で。