日本のジェンダーギャップは、残念ながら先進国では最低クラスで、特に政財界での女性進出が遅れている。しかし、唯一女性の進出が大きいのが文学界。最近の芥川賞、直木賞、本屋大賞など、大きな小説の賞での受賞者や候補者は女性が圧倒するほどに躍進している。体力差のあるスポーツや、政財界などの保守的な部門と異なり、ものを書くこと、その発想力に関しては男女差など全くなく、むしろ女性の方が今という時代を捉える革新性があるのではないかと感じる次第。
さて、瀬尾まい子さんもそんな女性作家のひとりで、数年前に本屋大賞も受賞している通り、大変な人気作家。本作「傑作はまだ」は、私の瀬尾作品読書処女作になったのですが、その発想力、家族感など、非常に興味深く、かつ感動あふれる作品に出会いました。
主人公の50歳になる作家は、20数年前にちょっとした切っ掛けで関係を持った女性が妊娠し、その女性に養育費を払っていくことを条件に女性が子供を産み、二人は別れる。作家は毎月10万円を女性に振り込み、女性は子供の写真を領収書代わりに送り続けるだけで、会うこともしない関係が続く。そんな作家の下に、件の実の子供が仕事の関係でしばらく住まわせてほしいとやってくる。作家は突然の実子の訪問と同居生活に最初戸惑うが、その子供が作家をおっさんと呼び、おっさんを社会参加させるべく、町内会活動に誘うなど、地域コミュニケーションの大切さを教えこんでゆき、引きこもりで暗い小説ばかり書いていた作家の内面を変えていく。そんな息子との生活が終わることになって初めて、息子ともっと過ごしたい気持ちを訴えることに。作家は、自分の親とも20年以上音信不通だったが、息子に刺激されて実家を訪ね、そこで息子と母親が毎月実家を訪れていたことを知り、ついには息子の母親と対面する関係に発展していくというお話。
そんな関係などあるはずがない!などと言ってしまえばそれまでだが、非常に痛快で、かつ最後はほろりとさせられる小説。特に、シングルマザーの母子がどんな苦労をしてきたかについては、あえて本作中では語らないが、毎月の10万円が母子にとって大きな助けになったことは確か。たまたま作家がそれなりに売れっ子で収入が印税で安定していたから送金し続けたのは幸運ではあるが、そうしたことは抜きにして、こういうシチュエーションを考えて、それを感動作に仕上げる瀬尾まい子さんの想像力には感服しました。
当分は瀬尾作品を追いかけるようになりそうです。
今日はこの辺で。