桜木紫乃「家族じまい」

先日北海道旅行に行った目的の一つは、桜木紫乃さんの小説に出てくる釧路の街や湿原を見たかった事でした。釧路生まれで、現在も北海道の江別に住んでいるという桜木さんの小説の舞台はほとんどが北海道で、特に多いのが釧路。観光で行った限りでは、街や観光地の温泉街などは寂れている印象はありましたが、そこに住む人間模様は分りません。

今回読了したのは、やはり北海道を舞台とした連作短編「家族じまい」。五つの短編のタイトルはいずれも女性の名前。それぞれの女性が、何らかの形で釧路に住む老夫婦とつながっている物語です。

タイトル順に「智代」は老夫婦の長女。父親から強制的に理容師の後継者として育てられたが、現在は結婚して子供二人は独立、本人はパートで格安理髪店に勤める身。父親には反感を抱きほとんど交流がないが、母親が認知症になっていることを妹から聞き、優しい夫と久しぶりに帰省する。

「陽紅」は、智代の旦那さんの弟と結婚するバツイチ女性の名前。母親の気まぐれで、「ピンク」という呼び名で命名したようだが、本人は気に入らずに「ようこ」としている。そんなようこさんは28歳のバツイチで現在は実家に住み、農協の窓口係。そこに通う夫となる男の母親が、息子と結婚してくれと粘る。その男はWスコアの55歳。普通はそんな血痕を本人も親も許さないはずが、とんとん拍子に話が進み結婚してしまうが、男は彼女を触ろうともしない・・・・。ちょっと非現実的ではあるのですが。

「乃理」は智代さんの妹。姉は両親と縁遠いが、乃理さんは両親と仲が良く、母親が認知症となったことを心配して、自分の住む函館に移住しないかと誘い、父親も二世帯住宅購入を決心し、一緒に住むことに。乃理さんも旦那さんも子供たちも仲良く暮らすのだが、父親は釧路に帰ることにする。乃理さんは父親の心が理解できない。

「紀和」は、老夫婦が乗船したフェリー内でサックス演奏を披露している女性。名古屋から苫小牧までの数日、演奏を聞いてくれチップまでくれた老夫婦と親しくなる。紀和さんも今れが北海道で、両親は離婚し、大学を出て就職したがすぐに離職し、今はサックスを吹いてなんとか暮らしている身。父親は札幌に住み、今でも小遣いをもらって生活の足しにしている。苫小牧につき老夫婦の夫から車を下船させるまで妻のそばにいてほしいと頼まれ、夫を待っているがその夫の方は下船後事故にあったことが分かる。この辺の老夫婦の夫の行動がどうもはっきりしないのが物足りないところ。

最後の「登美子」は老夫婦の認知症になった妻の姉。82歳になるがまだまだ元気な女性で、久しぶりに阿寒から釧路に来たついでに老夫婦宅に行き、妹が認知症になったことを知る。登美子さんは妹の世話を買って出る一方、自分の二人の娘との関係は薄く、特に下の娘は居所もわからないのだが、阿寒の旅館の女将から、その娘の話を聞いて自分の人生を考える。

「家族じまい」という本のタイトルは、何処から来たものなのか不明なのですが、老夫婦の妻が認知症になり、娘夫婦は遠くに住んでいて、周りにいる人間たちもなんとなく家族のぬくもりが感じられないことを象徴したタイトルなのかとも思った次第。

今日はこの辺で。