道尾秀介「風神の手」

道尾さんの連作中編シリーズは、大体第一章から二又は三章までが個別の話題を語り、終章でそれらがまじりあって終結するというパターンが多いが、本作「風神の手」もそのパターン。そしていずれも出会いの場は、本作では写真館。

第一章「心中花」の主人公は藤下奈津実さん。奈津実さんはガンで余命いくばくもない身で、娘の歩実と遺影専門の写真館を訪れ、そこである写真を見つけることから話が始まる。話は27年前にさかのぼり、奈津実さんが高校生の時の話。彼女の父親は建設業を営み、川の護岸工事を請け負うが、工事中に消石灰が流出し、大量の魚が死んで浮き上がる。父親は急いで魚を捕獲して事件を隠蔽。それが3か月後に表面化して会社は倒産。一家は土地を離れることになる。そんなつかの間の時に、奈津実は崎村という青年に出会い、恋心をお互いに持つが、青年は父親が大けがを負って働けなくなったため、写真の専門学校を辞めて、地元に戻り漁師をしている身。別れの前日、崎村青年の火振り漁の姿を写真に撮るべく奈津実さんが川で構えていると、橋の上から石が落とされ青年にあたり、父親から死んだと告げられる。ずっと亡くなったと思っていた崎村青年が生きていることを27年後に知るのであった。ここでいくつかの事件があるのだが、一番は川で魚が死んだこと。これがこの物語の核になってくる。

第二章「口笛鳥」の主人公は、川で魚が死ぬ事件があったときに小学5年生だった「まめ」と「でっかち」の仲良しコンビ。まめがカメラ店でカメラを万引きしたのを見ていたでっかちが、カメラをよこせと言って別れる。でっかちは転校生で、まめとでっかちはすぐに仲良くなる。でっかちの父親は川の護岸工事の仕事に雇われて、家族で引っ越してきた。そして、でっかちは母親の連れ子で、生みの父親はカメラ店の店主だった。そしてその父親が何者かに監禁されていることを知った二人は、助けるために大仕事をするのでありました。父親を監禁していた3人が最後の章に登場することになる。

第三章「無常風」で護岸工事と魚が死んだ事件との関係が明かされる。護岸工事は地元の二社の入札で奈津実の父親が経営する中江間建設が落札し工事中だったが、魚の事件が発覚し、工事は野方建設に受け継がれる。野方建設は社長が若くして亡くなり、妻の逸子が社長となっていたが、彼女が社長になってからは経営不振で赤字続き。そんなとき、悪魔のささやきが現れる。イザワと名乗る男が、消石灰を自分がまいて中江間建設が工事をできなくなるようにするから謝礼をとの話。経営不振で頭を抱えていた逸子は、その悪魔の言葉に乗ってしまう。3か月後に中江間の隠蔽がばれて護岸工事は野方建設が引き継ぐことに。それから逸子にとっては地獄が続く。最初50万円と言っていた金額が、100万円になりそれが5回続く。6回目に来たときに逸子はイザワを殺すことを考える。それが火振り漁の夜の話。逸子は包丁を抱えてイザワを追うが、そんな火振り漁の最中、崎村青年が大けがを負う事件が発生し、イザワの姿もいなくなる。それ以来、イザワは逸子の前には現れなくなる。しかし、逸子の苦悩は今でも続いていた。

現在に戻り、逸子は息子に社長を継承し、今は病で入院する身。余命いくばくもないことから、中江間奈津実の娘、歩実と崎村青年の息子、源哉の二人が逸子からすべてを聞き、二人は逸子を脅迫していた男を突き止める。そしてその男がでっかちの父親を監禁していた3人の男のうちの一人で、その男は川での事故で息子が植物状態になり金が必要だったことから脅迫を思いつき実行したこと。そして息子が死んだことから金が必要なくなったため、逸子の前に現れなくなったことを知る。このことを逸子に知らせて安心させようと思ったが、残念ながら逸子は思い十字架を背負って亡くなっていったのだった。

ここに書かなかったエピソードはたくさんあるが、第三章で盛り上がった作品でありました。

今日はこの辺で。