中山七里「絡新婦の糸」

超多作作家の2023年11月発刊の作品「絡新婦の糸」読了。今年は世界中で選挙が行われ、“SNSと選挙”が大きな話題となり、世界中で大きな課題でもある。最も大きな問題はファクトかフェイクかだ。特にフェイクが氾濫し、それが直接的に当落に大きな影響を及ぼすこと。アメリカ大統領選では、“ハイチ移民がペットの犬を食べる”などというフェイクがSNSで拡散し、トランプがハリスとの討論会でそのことを公然とファクトのごとく言い張った。アメリカ大統領選では実際にはSNS上でもっとおかしなフェイク情報が氾濫したのではないかと想像される。そして日本の選挙では、都知事選での石丸候補のSNS戦略が大きな武器となり、当初の予想を翻し次点となり、知名度を高くした。もう一つが兵庫県知事選。不信任を嫌疑全員の賛成で可決され、辞職に追い込まれた斉藤知事。出直し選挙ではまさか当選するとはだれも予想しなかったが、自身のSNS戦略と立候補した立花N党党首の応援とSNS投稿により、圧勝することになった。特に立花氏の応援にはフェイク情報も含まれており、未だに議論を呼んでいる。

中山氏の本作は選挙ではないが、“市民調査室”を名乗るインフルエンサーの投稿が多くの賛同者を得て、宗教の教祖のような存在となり、市民調査室が投稿すると、それが絡新婦の糸のように拡散され、熱海の老舗旅館を風評被害で危機に貶め、支配人夫婦が自殺する事件が発生する。警視庁サイバー対策課の延藤刑事が市民調査室を名乗るインフルエンサーを特定するため動いていたが、夫婦の自殺を契機にインフルエンサー探索に仇をとるように集中する。市民調査室に傾倒しリツイートするアカウントを探り出し、取り調べるが、直接のDMはないのでなかなか特定できない。市民調査室は巧妙にファクト情報を99%ツイートし、1%のフェイクをツイートし、信者を増やしていくのだが、老舗旅館の次のフェイクが大きな製紙会社。これは大王製紙の事件を参考にしているのですが、警視庁が内定しているが、一般には誰も知らないはずの情報が市民調査室がツイートする。そしてある殺人事件の現場に延藤だたたずむ写真もツイートされる。ここから延藤は、このインフルエンサーが、株価操作を企んで大儲けしようとしたのではないか、そして製紙会社の事件を知りえて、かつ延藤の写真を手に入れることができる人間ではないかと標的を絞り込み、実は延藤の同僚が犯人に特定されるのであった。

最後の犯人が意外な人物ではあるが、ヒントとなる表現もあり、鋭い読者は概ね特定できたのではないかと察しますが、それとは別に、SNSに関する題材をうまく展開している中山先生に恐れ入りました。

なお、韓国の尹大統領が非常戒厳を宣布した背景には、彼がユーチューブの情報、即ち野党が北朝鮮代理人となっている、とのフェイクを信じ込んでいたという情報があります。SNSへの傾倒の恐ろしさを痛感する事件でした。

今日はこの辺で。