奥田英朗「我が家の問題」

私の好きな作家のひとりでもある奥田英朗我が家の問題」読了。書名の通り、6つの家族の中で起こっている家族問題をユーモアと、そして若干のミステリーも含んで、奥田さんらしい筆致で描かれた短編集。ほぼ完結している作品もあれば、「これからどうなるんだろう?」と余韻を残す作品もあり、読者の想像力を掻き立てます。
甘い生活」は独身が長かった32歳の新婚の夫が主人公。妻は容姿も家事も文句のつけようのない出来た女性。そんな妻が待つ家庭ではありながら、なんとなく息苦しく、妻には残業と偽って麻雀なんかをやって帰宅を遅らせている旦那。蛇足ですが、この旦那さんの気持ちは、容姿は別にして、独身の長かった私にも経験があり、よく理解できます。そんな夫婦ですが、旦那が帰宅途中にカフェにより、時間をつぶしていることが妻にばれて、妻が切れることになり、初めての本格的な夫婦喧嘩。おそらく、これからが本当の夫婦生活が始まるのでしょう。
「ハズバンド」は、夫が会社で仕事ができない、お荷物社員になっているのではないかと心配する妻の話。夫の様子を観察したり、夫の家族に探りを入れたりして、その可能性が大いにあることが想像され、深刻に悩むようになる。きっと会社では誰にも相手にされず、昼食も一人で食べているのではないかと妄想が広がります。そこで夫に弁当を作ってやることに。そして弁当を作ること、その弁当を夫がうまかったと言われることに新たな幸せを感じることに。はたしてこの夫は本当にお荷物社員なのか?の結論は語られません。
「絵里のエイプリル」は、これまた家族の一大事。高校3年生の娘の絵里が主人公。あるとき母方の祖母から母宛の電話で、「弟が高校卒業までまったらどうか、夫婦で話し合っているのか」というような言葉を聞いてしまい、両親が本当は仲がうまくいってなくて、離婚するのではないかとの疑念を抱く。絵里は学校の仲良しグループや先生にも相談したりして、その可能性が大きいと思い悩む。ラストで、実は弟もその可能性を知っていたところでジ・エンド。本当に離婚するのかは語られないところが、ちょっとしたミステリーでした。
「夫とUFO」は、夫の精神的な病気を心配する妻の話。ある時夫が突然、UFOと交信していると真顔で話す。そこから、夫に異変が起きているのではないかと心配になり、本を買ったり、夫を追跡したり、職場の元同僚に話を聞いたりして、ストレスが原因であることを突き止める。最後の場面で、妻が夫に会社を辞めて休みましょうという場面は感動的。本書の中では最も気に入りました。
「里帰り」は、新婚の二人がお盆の休暇に、お互いの故郷である札幌と名古屋に里帰りして、そこでそれぞれの義父母や親戚の人たちと過ごす姿が描かれます。お互いにいい親や親戚を持っていることを確認するというお話。きっと幸せな家庭を築くでしょう。
最後の「妻とマラソン」は、奥田さん自身のことを書いているような作品。有名なN文学賞直木賞のことでしょう)を受賞以来、すっかり有名人でかつお金持ちになった作家は、いつも奥さんと自宅で顔をち突き合わせています。そんな妻が最近日課でランニングを始め、次第にその距離が伸びていき、ハーフマラソン程度の距離を走ることも。そのことを編集者に話すと、東京マラソンの出場枠をプレゼントすることに。妻は最初躊躇するが、最後には走ることに。夫が有名になり、お金持ちのもなり、かつての友人たちが妻からも離れて行き、孤独感や取り残され感が妻にはあったのではないかと、作家の夫が妻への思いを語り、東京マラソンのゴール地点で妻を迎える場面は感動的。
いずれの作品も、いかにも奥田作品っぽく、お勧めです。
今日はこの辺で。