東野圭吾「あの頃の誰か」

東野圭吾の短編集「あの頃の誰か」読了。

この作品は、いずれも1990年代(一策のみ1989年12月)に雑誌に掲載されたものの、短編集として単行本化されなかった作品を集めたもの。あとがきで東野さんが「いずれも納得のいかない作品」というようなことを言っていますが、やはり他の一般的な作家の作品の水準以上にはいっていると思われる作品で、2011年の文庫本初版から2018年時点で17刷を数えています。初版で終わりの本が大多数を占める中、やはり売れっ子作家は違うものです。

おさめられた作品は「シャレードがいっぱい」から「20年目の約束」まで8篇。「あの頃の誰か」というタイトルの作品はなく、これは東野さん自身が「あのころ自分はどんな作品を書いていたのか」を反省めいてつけたタイトルのようにも思えます。

シャレードがいっぱい」が書かれたのが1990年、バブル絶頂期のような時代背景を思わせるバブリーな雰囲気が味わえます。

「さよならお父さん」は、1994年の作品で、後の「秘密」の原型となるストーリー。この作品があったから、名作長編が生まれたのでしょう。

最後の「20年目の約束」は、少年時代に大きな過ちを犯してしまったことことで、贖罪の意識を持つ夫と、その夫の真意を探ろうとする妻の、若い夫婦を主人公としたミステリー。

他には「名探偵退場」のようなコメディータッチの作品や、「眠りたい死にたくない」などの人間心理を軽く描いた作品など、よく題材が浮かぶものだなあと、感心させられました。

今日はこの辺で。