奥田英朗「バラエティ」

久方ぶりに奥田英朗の短篇集作品「バラエティ」読了。著者があとがきで書いているように、編集者が小説雑誌のシリーズものにすべく人気作家に書いてもらったものの、残念ながらシリーズ化されなかった作品を集めた単行本の短篇集。確かにシリーズにして連作短編にしていたら面白そうな作品も見受けられます。
最初の「おれは社長だ」と次の「毎度おおきに」がその典型。この2編は同じ男が主人公の連作。大手広告会社から独立して社長となった38歳の男が、困難にぶつかりながら、何とかやっていけそうな目途をつけるところまでが描かれますが、是非ともその後の成功物語、あるいは失敗物語をもっと読みたくなりました。
その他の作品はすべて一話のみ。その中でも傑作は「ドライブ・イン・サマー」。共働きで子供のいない夫婦が奥さんの高級車で神戸の実家へ帰省することに。道路はすごい渋滞。気のいい奥さんはパーキングエリアでヒッチハイク中の若い男を同乗させてしまう。その男が図々しいことから旦那は気が気ではない。おまけにバス旅行で置いてけぼりにあった見ず知らずのおばあさんまで同乗させて。太っ腹の奥さんと小心者の旦那さんのコントラストが面白い作品。
「住み込み可」は、熱海の老舗食事処が舞台。借金から逃げてきたシングルマザーが住み込みで働いている食堂に、同じように素性のはっきりしない女性がみんなと打ち解けない状態で働いている。果たしてその女性の正体はいかに?読んでいるとすぐにわかるように、オーム事件で逃亡生活を送っていた女性を題材にした小説。
「セブンティーン」は、17歳の娘を持つ母親が、娘が女になる気配を感じ取って、心が揺れる話。17歳で処女を捨てることに母親は寛大に送り出す。
「夏のアルバム」は著者自身が最も気に入っている作品とのこと。小学2年生の少年の夏のアルバムがおばさんの悲しい死を焦点に描かれる。いとこのお姉さんたちと一緒になく場面が藻の悲しい。
奥田さんの新作を心待ちにしているのですが、本人が言うように遅筆で苦しんでいるのでしょうか。
今日はこの辺で。