薬丸岳「刑事の約束」

薬丸岳の夏目刑事シリーズ第4作「刑事の約束」読了。短編連作集ですが、どの作品も読みやすく、そして夏目刑事の人間を見る鋭い視線が描かれている作品。
「無縁」は戸籍のない少年とその親代わりの男を描く。万引き容疑で捕まった少年の身元は沈黙を押し通して、親や家がなかなか見つからず、養護施設へ。一方、親代わりの男と子供をかくまっていた女性は、戸籍がない少年の捜索願も出せない。その理由が次第に明らかになります。
不惑」は、恋人の女性が自殺を図り、植物状態となる原因を作った暴行少年を殺すため、彼の結婚式で復讐を果たそうとする男の姿を描く。恋人の女性は恩師の娘さんで、男の心の中を見通す夏目の透視眼の鋭さが際立ちます。
「被疑者死亡」は、友人を殺した疑いで検挙される寸前で逃げられ、被疑者はその途中で交通事故にあい死亡してしまう。目撃証言もあり、本来であれば被疑者死亡で捜査が終わるはずだが、夏目刑事は事件の真相を探っていき、殺害の動機は意外なところにあることを突き止める。夏目の真骨頂が描かれる。
「終の住処」は、88歳の独居老人が親切で熱心なケアマネージャーを階段で突き飛ばして、重傷を負わせる。老人は認知症の気があるものの、突き飛ばしたことは認めるが、その動機は語らない。はたして、なぜ突き飛ばしたのか。若干無理がある設定で、共感できないところはありました。
表題作の「刑事の約束」は書き下ろし作品。夏目シリーズ第一作「刑事のまなざし」の最初の作品「オムライス」で、母親に殺されそうになり、その結果心を失った少年が再登場。少年はカウンセラーの事務所で知り合った拒食症の女性が自分と同じ境遇と知り、女性の母親を殺す。その動機とは?「オムライス」で夏目は、母親が殺そうとしたのが恋人の男ではなく、実は息子だったことを突き止めるが、それがはたして少年にとって良かったのか?この話は「オムライス」の続編の趣ですが、少年の心の傷が回復していなかったのは読者としても残念な限りでした。
今日はこの辺で。