中山七里「ヒポクラテスの憂鬱」

中山七里先生のヒポクラテスシリーズ第二弾「ヒポクラテスの憂鬱」読了。前作「ヒポクラテスの誓い」同様、非常に面白い作品に出来上がっています。サスペンスにある不合理性も少ない作品。遺体解剖という法医学の分野を扱う難しさを、よくもこれだけ読みやすい作品にしたものだと感心するばかり。光崎教授、キャシー准教授、真琴先生の3人の解剖医と、埼玉県警の小手川刑事という個性的な登場人物のチームワークが微笑ましい限り。

本作は前作同様連作短編集で、各作品の標題が動詞形となっているのは、東野圭吾のシリーズに似ている部分も。

「堕ちる」は16歳の少女アイドルが舞台で躓いて転落してしまう事件。おなかの赤ちゃんをかばって転落する場面は、少女であっても母性なのか。

「熱中する」と書いて「のぼせる」。世間によくあった、子供を車において夫婦でパチンコをして、戻ったら熱中症で死んでいた子供の事件。子供の体に虐待の後もないことから、虐待死ではないとの警察の判断だが、子供の死体を解剖したら胃腸の中に紙がたくさん見つかる。直近でも福岡で5歳の子供に食事を与えず餓死させた親と謎の女が捕まりましたが、悲惨な事件を解剖が解決。

「焼ける」は、とある新興宗教教団で起きた教祖の焼死事件。教祖を溺愛する幹部信者が放火して教祖を殺したと自供するが、実は教祖末期がんであった。

「停まる」は、心臓病を抱える初老の男が突然路上で倒れ死亡。死の直前に死亡保険金を増額していたことから事件性を疑う小手川刑事。でも結果はペースメーカーの誤作動でした。

最も長編の「吊るす」はさすがに読み応えあり。若い女性銀行員が首を吊って自殺。原因は横領のためで、家族は必死に否定するが事件性なく直ぐに荼毘に付されてしまう。これでは法医学の出番はなしやと思いきや、小手川刑事は助言を求めに法医学教室へ。真琴先生の助言から携帯電話記録を復元して、証券会社社員にたどり着く。決定的証拠がなく小手川はさらに証拠を集め、2か月前にも同じような事件があったことを突き止め、同じ男が関係していることを突き止め、憎き犯人を突き詰めていく。真琴はCO中毒死の遺体解剖までやってしまう大胆さ。

「暴く」は、小手川刑事の同期の女性警察官が自殺死。簡単に自殺と判断されるが、小手川はあきらめきれない。何とか解剖して真相を突き止めたいが、組織の予算がそれを許さない状況。光崎教授は遺体の状況から不信を発見し、やっと解剖にたどり着き、ついには組織内のとんでもない奴の悪だくみが明らかに。

6篇とも楽しめましたが、特に「吊るす」と「暴く」が印象に残りました。

今日はこの辺で。