浅田次郎先生作品「長く高い壁」読了。浅田先生得意の中国もの。ただ、主人公は中国人ではなく日本軍人。1938年の中国北京近く、万里の長城がある「張
当時の日本軍の中国侵略を時系列に追ってみましょう。
1931年:満州事変勃発、南満州鉄道が爆破されたことを契機に関東軍が奉天、南満州を占領
この爆破も関東軍のによるものと言うのが通説(柳条湖事件)
1932年:清の最後の皇帝、溥儀を担いで満州国設立、これは関東軍の完全な傀儡
1933年:国際連盟のリットン報告を契機に連盟を脱退
1936年:2.26事件発生
1937年:盧溝橋事件、日中全面戦争へ。盧溝橋事件も日本側が仕掛けてと言われている
1941年:日米開戦
以上のような時代背景の中、1938年は日中全面戦争により、日本軍が満州から万里の長城を超えて中国大陸に侵略している時期。万里の長城、張飛嶺で敵軍の守備に就いていた10名の部隊全員が何者かに毒殺され、その真相を探るべく群から依頼された有名な探偵作家、小柳逸馬と案内役の川津中尉、現地憲兵の小田島曹長が現場に赴き、関係者に聴取し真相に迫る。こう書くと、浅田先生には珍しい推理小説家と思いきや、推理小説的なドキドキ感はそれほどなく、当時の軍隊の実態、更には日中戦争の大義なき戦いのむなしさを強調する作品になっています。
題名の「長く高い壁」はもちろん万里の長城を思い浮かべるのですが、同時に個人の良心や誠実さではどうにもならない、日本の当時の体制、大義なき戦いを正当化してしまう日本の軍隊の越えることのできない習性というものを大いに批判する言葉と私はとらえました。
推理的な要素は期待したほどありませんが、これは読後の失望ではなく、さすが浅田先生!!!と言う賛辞。やはり浅田先生の作品に失望という言葉はありませんでした。
今日はこの辺で。