桜木紫乃「氷平線」

桜木紫乃「氷平線」読了。桜木さんのデビュー作となった短編「雪虫」ほか、全6篇の短編集。そのどれもが味わいのある桜木作品の味が満載。
いずれも釧路を中心とした地域を舞台にした作品で、情景描写が豊かです。
雪虫」は、札幌で事業に失敗して十勝に戻った青年が、人妻になったかつての恋人と関係を続けながら、牧場の仕事を継いでいる。父親がを嫁にしようとお金で若いフィリッピン人を呼び寄せ同居し始めるが、達郎はかつての恋人に未練があってフィリピンの女を突き放すが・・・。
「霧繭」は、腕のいい着物の仕立て職人、真紀が主人公。年老いた師匠から仕事をすべて引き受けるが、呉服屋さんの女主人とその呉服屋の番頭さんとのちょっとした三角関係が描かれる。手に職を持つ女のしたたかさも強く感じられる作品。
「夏の稜線」は、東京から北海道の牧場に嫁いだ京子が姑と夫に疎外され、ついには家を出る決心をする過程を描く。
「海に帰る」は、昭和49年が舞台の古い話。圭介は25歳ながら、師匠が引退したため、店を受け継いだ理容職人。一人だけで店を切り盛りする圭介のところに客として訪れた美しい水商売風の女との恋を描く。
「水の棺」は、釧路の歯科医院から田舎町の歯科医院に転院する女歯科医師良子が、転院するまで体の関係があった前の歯科医院の院長との複雑な感情を描く。
そして最後の表題作「氷平線」がやはり秀逸。小さな漁港の貧しい集落に住む誠一郎が、酒ばかり飲んで母親に暴力をふるう父親との確執、勉強して東大に入り税務署長として北海道に戻って、かつて近くに住んでいて、一度だけ体の関係を持った女への思いを断ち切れず、女と一緒になる決意をするが、そんな時父親が誠一郎を騙って詐欺まがいのことをしていることを知り、事件が起こる。薄幸な女友江と彼の母親の、二人の女に愛された誠一郎は幸せだったのでは。
6篇とも味わい深い傑作でした。
今日はこの辺で。