桜木紫乃「俺と師匠とブルーボーイとストリッパー」

釧路生まれで、現在は江別にお住いという桜木紫乃さんの作品「俺と師匠とブルーボーイとストリッパー」読了。桜木さんの小説に感化され北海道旅行につい最近行ってきたばかりですが、この小説の舞台も釧路で、時代は昭和50年ごろの話。したがって、まだ地方もそれほど疲弊していなかった時代でしょうか。

父親が亡くなっても葬式に出ることもない、家族に恵まれなかった青年が勤めるのは、かつては地方にも多くあった大型キャバレー。釧路も漁業が今よりももっと盛んで、漁師さんや水産関係の産業が盛んな時期。市民も大いにこうした大型キャバレーに行って楽しんでいた時代です。青年はキャバレーの支配人にもかわいがられ、それなりに充実した日々を送っているが、身分は今でいう非正規=アルバイトの身分で、自分の将来を能動的に考えている状態ではない。この大型キャバレーに3人のドサ周りの出し物を披露するマジシャン=師匠、おかまっぽい歌手=ブルーボーイ、踊り子=ストリッパーがやってきて、ひょんなことから青年が寝泊まりするみすぼらしいキャバレーの寮に寝泊まりすることになり、青年と3人との深くて濃い生活が始まる。3人は苦労人でもあり、青年の境遇にも同情のようなものを示して、青年もいつか彼らと別れたくないような感情を抱くようになる。

12月から1月にかけての寒い釧路を舞台にするものの、何か暖かい人間関係を感じさせ、青年の成長を3人が見守るという構図が描かれます。本作には意地悪な人は一人も出てこず、青唯一青年の父親がろくでもない男であったものの、遺骨になって母親が持ってきただけ。両親との関係が薄く、周りの人間ともなかなかコミュニケーションをとらず、孤立気味だった青年が、最後は東京にとびだったことをエピローグで描写されているところが、なかなか乙なエンドロールになっていました。寒々とした釧路に温かい人間関係があって、いい時代でしたが、平成になってからは町は衰退の方向に向かってまっしぐら。地方都市にはつらい時代です。

今日はこの辺で。