桜木紫乃「ラブレス」

桜木紫乃「ラブレス」読了。読み進むうちに目が離せなくなるほどに素晴らしい作品でした。「ホテルローヤル」で直木賞を受賞していますが、その1年ほど前ぐらいに描かれた作品で、直木賞の候補にもなっていましたが、受賞を逃した作品。しかし、私はむしろこの作品の方が(長編のためか)印象に残るように思う。
終戦後の間近い時期に、北海道の極貧の開拓農家に生まれた一人の女性、杉山百合江の一代記を描いた作品と言ってしまえばそれまでだが、そこにはたくさんのドラマが展開する。その極貧の程度ですが、昨年暮れに亡くなった私の女房の父親が少年時に、同じように開拓者として父親とともに北海道に渡り、極貧を経験したアことをよく聞いていたので、非常に現実味があります。小説の中での極貧の表現が、決して誇張ではないことがわかります。
百合江はその極貧の中、中学を卒業して薬屋に奉公に出ますが、歌が好きなことから旅回りの一座に弟子入りし、全国を旅回りする生活を送ることに。一座の座長が相次いで亡くなり、一座が解散し、女役を務めた役者との間に子供をもうけ、北海道に帰ることになります。それからの、妹とのやり取りや、親との関係が描写され、百合江はどちらかと言えば受動的な生き方をする。しかし、父親が誰であろうと、自分が生んだ二人の娘に対しての愛情は深く刻まれます。
百合江と対照的な妹の里美との姉妹愛、娘との確執、嫁いだ先での裏切りなどがあるのですが、一つの救いは、父親と弟たち以外は、百合江が出合った男に、真に悪い人がいなかったこと、したがって暴力を振るわれる場面などは出てきません。
3歳で生き別れた娘が立派になって生きていることが終章で判明しますが、それも彼女は知っていたことがわかりますが、百合江の人生は一体何だったのか?幸せだったのか不幸だったのか?桜木さんは決して不幸ではなかったと言っているように読み取りました。
最後に桜木作品に必ず出てくる釧路の描写。1950年~1970年代までは、炭鉱と漁業で栄えた人口20万人の都市のよりはネオンが輝き、ホステスもたくさんいて、活況を呈していましたが、1980年代以降の価値中はさびれる一方。日本全国の地方都市が抱える問題の縮図のような街を描写しています。こんな寂しい街で生き延びていく術が、次第になくなっていく現状もまた、小説を読んでいてつくづく感じた次第です。
今日はこの辺で。