桜木紫乃「無垢の領域」

桜木紫乃「無垢の領域」を読む。桜木さんは釧路出身ということで、北海道の道東地方を舞台にいた小説が多いのですが、この小説も釧路地方が舞台。道東の冬の寒さの雰囲気や湿原に近いということで、うっとりとした雰囲気が、その豊かな表現から想像されてきます。そして、その寒くてうら悲しいような雰囲気が随所に読み取れる内容です。でも、決して途中で読みたくなくなるような小説でもなく、桜木さんのストーリーとしての才能はさすが。
この小説は三人の主人公の立場からそれぞれが語ることで話が展開します。
秋津龍生は書道家ですが、生活は妻の給料で養ってもらい、細々と書道教室を開いています。彼は妻への負い目や母親の介護でかなり疲れ果ててもいま。二人目の主人公は秋津の妻、伶子。彼女は養護学級の教師をしており、夫と姑との生活に無機質な毎日を送っています。最後の主人公が林原信輝。彼は民間委託された図書館の館長で、仕事はやり手だが妹が病気で心身ともに疲れた生活が続きます。そして伶子と信輝が、信輝の妹、純香の縁で出会い、互いを癒しあう。この三角関係を道東の何とも言えないくらい天気とともに描き出すのですが、純香の死と秋津の書道展大賞受賞の受賞が最後に用意されています。はっきりとは書かないのですが、桜木の表現が純香と大賞受賞が結びつくラストは極上のミステリー。
今日はこの辺で。