雫井脩介「虚貌」読了

雫井脩介「虚貌」を本日読了しました。雫井作品は「火の粉」以来2作目ですが、この作品もなかなか読み応えがありました。サスペンスとしての内容は、シリコンでの顔の複製が人間の肌と見分けがつかないかどうかなど疑問点があり、いまひとつなのでしょうが、20年前に起きた悲惨な殺人事件をベースにした人間の復讐劇、もっと言えば人間ドラマとしてはなかなかの作品でした。
この作品では、人間の顔が大きなテーマとなっています。顔を覚えるのが苦手な老刑事、顔に嫌悪感を募らせる老刑事の娘、顔の痣にコンプレックスを持つ若い刑事、そして火をかけられ顔に大やけどを負った殺人被害者の息子。確かに顔は人間を識別したり、人間の感情を読み取ったりする特別な部位。男女を問わず、その顔のつくりが人生を大きく左右するものでもあります。美醜の見分けは、残念ながらまずは顔から始まるのも否定できない事実です。この顔を重要テーマに進むこの小説で、やけどを負った殺人被害者の息子が次第にその姿を現して来るのですが、その息子の顔はやけどで醜いのでしょうが、その醜さは小説からは読み取れません。なぜなら、彼の心は美しいからだと思います。逆に写真家となった青年は大変に整った顔をしているのですが、決して美しい顔が想像できません。なぜなら悪意が感じられるからです。この小説で最も美しい顔を持っているのはやけどを負った人なのです。
小説の最後で老刑事がなくなりますが、その日が丁度勤労感謝の日となっていました。そういえば今日は勤労感謝です。何か偶然が重なりました。
今日はこの辺で。