日本推理作家協会編「至高のミステリー、ここにあり」

日本推理作家協会編の講談社文庫ミステリー傑作選は、7人の作家の作品を紹介。いずれも味のある作品ぞろいながら、ここでは4作品を紹介します。

横山秀夫「罪つくり」は、得意の警察もの。横山作品は、登場人物のセリフが短く、セリフ間の描写も短くテキパキしているので読みやすい筆致。夫の心臓が停止したのでAEDを使い蘇生を試みたが、蘇生ならず死亡したという事件。この事件のきっかけとなるラブホテルでの女性殺害事件も発生。鑑識と刑事のいとこが出てきて、人間関係も複雑に描かれる。結果はAEDを使った妻による巧妙な殺人事件なのですが、殺された夫の法が罪は重いと思うのですが。

三上洸「スペインの靴」は、美しい足に魅了された靴職人の異常性を描いたサイコパス的小説。名人的な靴職人の主人公は、上得意の金持ちの若い妻の足に魅了され、完璧な靴を何足も作り、喜ばれる。最後には、その女性を監禁して最高の靴を作るのですが、彼の異常性が現れるラスト。靴で悩む人も多いようですが、最高にフィットした靴を履きたいものです。但し、ストーカーはご免こうむりますが。

薬丸岳「オムライス」が最も読ませる傑作。夫を病気で亡くし、シングルマザーで一人息子を育てている看護師の女性。その子供も今は高校生となっている。患者として入院していた男と再婚して3人の生活が始まるが、この男が本性を現し、仕事を辞め、金を無心し、二人に暴力をふるうような男。3人が住むアパートが火事になり、男が焼死。息子が疑われるのですが実は・・・・。乳児や児童虐待の事件が世間を騒がせますが、旦那のほうが妻と子供に暴力をふるい、母親が子供を守れない、あるいは母親もまた子供に暴力をふるうようなケースも見られます。この小説でも、そんな女の弱さと怖さが描かれます。

なお、この小説は薬丸が生んだ刑事、夏目信人が、オムライスをヒントに解決します。

北森鴻「ラストマティーニ」は、一流のバーテンダー兼店主(ここではバーマン)の谷川の店に来た、同じく一流バーマンの香月がマティーニを注文し、その味が一流でなかったことからクレームらしきことを言ったのがきっかけで、谷川はバーマンを辞める。なぜ谷川はそんな酒を出したのか?をめぐって、香月周辺の人間がうわさ話。そこには谷川のある意図があった、というお話。この世界の職人気質を描いた作品。

今日はこの辺で。